団地妻に数百点のピンクハウス…フリマアプリ「メルカリ」で出会う、アナタの知らない世界(2/2)

2016/10/27 11:00 隅田川やすこ 隅田川やすこ



■「なんでも売れる」

私がメルカリを始めたのは、2015年秋。元来物を捨てられない性格で、頂きもののサンプル商品や雑誌の付録など無限にクローゼットに放り込んでいたものを、引っ越しに伴い処分することを決意したのがきっかけ。

知り合いに相談したところ「メルカリは、本当に何でも売れるからやってごらん」と言われ、アプリをインストール。

極度のめんどくさがり屋、かつ、ネットトラブル耐性のない私は、今までヤフオクなどは出品も落札さえも未経験だったのだが、試しに数年前の雑誌の付録のクラッチバックを300円で出品したところ数時間で落札があり、アプリインストール→出品→落札、までのあまりの手軽さに衝撃を受け、以来家中のものを夢中で売りさばくようになっていった。



■ ボロボロの、誰が買うのかわからないシャネルが半日で売れた

使わなくなった財布なども、今までなかなか捨てられなかった。かと言って、質屋で売れるほど綺麗には使っていない。何年も、普通に使用してきた。

しかし先の知り合いからの助言「ブランド物であれば、必ず売れる」という言葉に半信半疑になりながら、黒ずんでもはやピンク色とも言えないシャネルのキーケースを5000円で出品。すると、瞬く間にコメントがつき、半日で売れたのだ。



あまりにもなんでも売れる。というか、いらないものほどよく売れる。情が入って高値にすると売れないこともある。「こんなもの誰が買うんだ」というものを、「誰でも買える額」で売ることが重要。

テーマパークのキャラものの耳あて、親が何年も前に買ってきた免税店の化粧品、1度だけ使った化粧品(!)そして気づくと家中のものが「メルカリで売れるもの」と「そうでないもの」にしか分けられないぐらいに、私は「メルカリ脳」になっていったのである。

■ 「シャネル、ぜんぜんキレイじゃないですか☆」

メルカリは、ヤフオクなどと同じで、やりとり後に評価を付けたり、ユーザーのプロフィールを確認することもできる。件のブランド品、落札したのは地方在住の主婦だった。

やりとりの文面から伝わってくるポップさ、1000件に渡る他の落札者からの過去の評価のところどころ交じるクレーム。

「意志疎通が図れませんでした」「新品と書いてあり購入した服に米粒がついていました」…そしてプロフィール。「好きなブランドはシャネルです☆子供たちもみ~んなシャネルが大好き!!」



出品履歴はしまむらや西松屋を中心とした子供服を数百円単位でひたすら売り続けている。

メッセージのやり取りをするうちに、昭和最後生まれの私がおそらく最後の世代であろう、かつてしていた知らない人との文通文化と重なってくる。彼女の人生、家族構成や住所から想像する暮らしぶり、出品された衣類の印象から導き出される趣向。なぜか、胸がぎゅっとしてしまった。この人に、ボロボロのシャネルを売りつけている、自分って。

それでも丁寧なやりとりを済ませ、無事到着の連絡、お礼と共に「全然、キレイじゃないですか☆」



数多の子供服を売ったお金で、私の数年間が染み込んだブランド品を使ってくれる。こちらこそありがとうだ。心から、ありがとうだ。

■ 落札者へ想いを馳せるようになる

この一件以来、私は落札者たちとのやりとりを通して、その方々の人生に触れる瞬間にも魅了されていった。

ピンクハウスの洋服だけを数百点売りに出している人。昔は良家の娘だったのに、没落して服を売りさばくことになってしまったのではないか、それとも、とあるお屋敷婦人が亡くなり、その屋敷に仕えていた出品者が譲り受けた形見を売っているのではないか、とか、単に森尾由美が売っているんじゃないか、とか。



ある時にはこんなこともあった。12月20日、薬局でもらった化粧品のサンプルをダメ元で売りにだしたところ、高校生から「母へのクリスマスプレゼントにしたいので12月23日までに送って頂くことはできますか?」というメッセージ。泣いた。速達で送った。



使い古された表現かもしれないが、顔が見えなくても画面の向こうには生身の人間がいることを深く痛感する。生々しい、生身の人間が生きているのだと。

ある瞬間自分の手元で自分の一部として存在していたものが、他人の手元に渡る。他人の人生の一部となって生き直す。そこに介在する一瞬の人間交差点の感覚は瓶につめて海に流した手紙の返事が来たような気持ちにさせてくれる。

交わらない人間同士が交わっている。できるだけ簡単に、できるだけ敷居を低くしてくれた、フリマアプリ・メルカリのおかげで。

文:隅田川やすこ

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