羽生結弦GPファイナルで快挙!「キスクラ」の涙とオーサーコーチの優しい手

2015/12/17 17:30 東谷好依 東谷好依


フィギュアスケートMemorial グランプリシリーズ2015 in グランプリファイナル
フィギュアスケートMemorial グランプリシリーズ2015 in グランプリファイナル/カイゼン


衝撃のNHK杯から2週間。グランプリ(GP)シリーズを勝ち抜いた上位6人が競うファイナルの舞台で、またも羽生結弦選手が世界最高得点を更新した。

多くのファンが、NHK杯の点数にどこまで「近づけるか」を期待していただろう。ところが、ショートプログラム(SP)最後の3アクセルが成功したとき、「まさか……」と、別の期待がわいてきた。まさか、この大会でさらに世界最高点を引き上げるのでは——。

翌々日のフリースケーティング(FS)で、誰も到達したことのない点数がコールされると、羽生選手はキス&クライで涙をみせた。震える肩を、ブライアン・オーサーコーチが優しく揺する。「よくやった、おめでとう」と、その手が語っていた。

羽生選手とオーサーコーチだけではない。今年のグランプリファイナルでは、選手とコーチの感動的なやりとりがいくつも見られた。今回は、そんな場面に注目して、大会を振り返ってみたいと思う。


■宇野選手が初めてみせた“男の顔”にドキッ

「宇野選手の隣にいつもいる美人は誰?」
宇野選手の人気が上がるにつれて、ネット上でこんな質問が飛び交うようになった。年の離れた姉のように宇野選手に寄り添う樋口美穂子コーチへの、嫉妬のようなコメントも時々みかける。

樋口コーチは、伊藤みどりさんと同期の元女子シングル選手。競技引退後は、山田満知子コーチとともに、多くの選手を育ててきた。振付師としても活躍しており、今シーズンの宇野選手のプログラムは、エキシビションまですべて彼女の作品だ。

演技前、樋口コーチはエネルギーを送るように宇野選手の手に両手を重ねて言葉をかける。宇野選手は少年らしい表情で、コクコクとうなずいてからスタート位置につく。それが、この2人のいつもの定番だった。

しかし、今大会のFSではちょっとした変化があった。SPでの宇野選手の順位は4位。3位との差は0.48点。メダルに届くかもしれない——。そんな思いが影響したのだろうか。

樋口コーチがいつも通り言葉をかけている間中、宇野選手はずっと顔を下に向けていた。そしていよいよスタート位置につく直前、キッと顔を上げて、コーチの目を真っ直ぐ見つめた。私が樋口コーチだったら、間違いなくドキッとしたことだろう。今までにない、色気のある「大人の男」の顔をしていた。

スケール感のあるFSで会場をとりこにした宇野選手は、初出場の大舞台でパーソナルベストを更新。キス&クライで樋口コーチと何度も見つめ合い、笑い合った。「信じられない。本当に?」というように。その2人の姿に、またもや嫉妬するファンがいたかもしれない。


■宮原選手と濱田コーチの「おでこの儀式」

宮原知子選手の成長を10年間見続けてきたのが、濱田美栄コーチだ。キス&クライでは、「イケメン」と話題の田村岳斗コーチと3人で並ぶ姿がよく見られる。リラックスしたムードは、まるで家族のようだ。

テレビ朝日の放送では、宮原選手と濱田コーチが演技前に必ず行う「おでこの儀式」が取りあげられていた。スケートアメリカのFSの直前。宮原選手の額に、自分の額を当てて、「いいね、自分に挑戦!絶対頑張って!」と鼓舞する。

この“お決まり”について宮原選手は、「儀式というよりも、先生に言われていることを自分で大丈夫と再確認している感じです」と説明。一方の濱田コーチは、「手が震えているときもあるから、しっかり握って、本当にいい経験ができますようにと思っておでこをくっつけます」と話す。

当たり前だけれど、コーチはリンクの上についていくことができない。選手が氷の上に立ったら、そこから先は見守ることしかできないのだ。だから、「いい経験ができますように」というのは、選手を指導するコーチ全員の願いだろう。世界の舞台で銀メダルを得たことへの喜びは、本人よりも、「氷上の母」である濱田コーチの方が大きかったかもしれない。


■オーサーファミリーの熱いドラマに感涙!

羽生選手と、ハビエル・フェルナンデス選手。この2人を指導するのが、ブライアン・オーサーコーチだ。キム・ヨナ選手を五輪金メダルに導いたことで知られるオーサーコーチは、自身も五輪の表彰台に2度立った名選手だった。

各国選手からのオファーが絶えないオーサーコーチは、ビッグファミリーを率いる家長のような存在だ。自慢の息子である羽生選手とフェルナンデス選手は、よきライバルであり、よき仲間。お互いの存在が刺激になって、向上心につながっている。

羽生選手とフェルナンデス選手が同じ大会に出場すると、オーサーコーチは忙しい。今大会では、SPを終えた羽生選手をリンクサイドで迎えたあと、すぐさまフェルナンデス選手をリンクに送り出さねばならなかった。そのため羽生選手は、得点が出るまでの数分を1人きりで過ごすことになった(傍らにはプーさんがいたけれど)。

やがて歴代最高得点がコールされ、ガッツポーズをみせた羽生選手。しかし、その得点のせいで会場のざわめきがおさまらないことに気づいた羽生選手は、客席に向かって「静かにして、落ち着いて」というジェスチャーをしてみせた。スタートを待つフェルナンデス選手が自分の演技に集中できるように。ライバルが最高の状態で自分と戦えるように。

翌々日のFSの滑走順は、フェルナンデス選手が5番、羽生選手が6番。200点超えを果たしたフェルナンデス選手への歓声がわき起こるなか、羽生選手がリンクに出て行くという、SPとは逆の展開になった。

羽生選手の演技中、オーサーコーチはリンクサイドで腕を組んでじっとしていた。しかし、演技が終わると、リンク内側の壁を右手でバンバンたたき始めた。拍手ではとても足りないというように。演技を終えて興奮状態にあった羽生選手は、キス&クライで座るまでの間、オーサーコーチにずっと何かを話しかけていた。

まだ得点が出ていないにもかかわらず、トップ3の待機室で羽生選手の演技を見ていたフェルナンデス選手が、床にひざをついて「あ〜、負けた!完敗だよゆづる!」というポーズをとる。しかし、その顔には、晴れ晴れとした笑顔が浮かんでいた。

ふたたびキス&クライ。羽生選手が満面の笑みで観客に応える。オーサーコーチは頬を真っ赤に染めて、子供のようなホクホクとした表情で得点を待っている。やがて、世界最高得点の330.43点がコールされ、会場が歓喜に包まれた。こみあげる思いをこらえきれず、羽生選手が両手で顔を覆う。その肩をオーサーコーチが優しくたたいて抱き寄せる。

フィギュアスケートを見続けていてよかったと思うのは、こんなドラマが生まれる瞬間だ。今大会で見た“オーサーファミリー”の熱いドラマは、たぶん、ずっと忘れられないだろう。

(東谷好依)


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