イタリア人激怒?「20種のチーズのピザ」をつくってみた
「4種のチーズのピザ」(クアトロフォルマッジ)が好きだ。
4種類のチーズの旨味と香りが渾然一体となりながら、単純明快にガツンと美味い。チーズという食品のポテンシャルをしみじみと感じることができる料理のひとつではないでしょうか。
今回調べてみて初めて知ったのですが、「4種のチーズのピザ」って、モッツァレラチーズ、ゴルゴンゾーラチーズ、パルミジャーノ、クリームチーズのイタリア産チーズ4種類でつくるのが基本らしいです(お店によって変わったりする場合も)。
でも、前々から思ってたのですが、
「4種のチーズのピザ」って4種じゃなきゃダメなんですかね?
4種でこれだけ美味しいのならば、チーズの種類を増やしたらもっと美味しくなるのではないだろうか。
というわけで、20種のチーズのピザをつくってみたいと思います。
今回用意したチーズは、
1列目:ロックフォール、カマンベール、チェダー、ゴーダ、パルミジャーノ
2列目:モッツァレラ、マリボー、サムソー、ミモレット、アジアーゴ
3列目:リシュモンブリー、ゴルゴンゾーラ、ダナブルー、エダム、シェーブル
4列目:マスカルポーネ、クリーム、イベリコ、カブラアルヴィーノ、マンチェゴ
2列目:モッツァレラ、マリボー、サムソー、ミモレット、アジアーゴ
3列目:リシュモンブリー、ゴルゴンゾーラ、ダナブルー、エダム、シェーブル
4列目:マスカルポーネ、クリーム、イベリコ、カブラアルヴィーノ、マンチェゴ
となっております。赤文字が通常の「4種のチーズのピザ」で使われるもの
なぜ20種類なのかというと単純に4の5倍なのでキリがいいのと、一般のスーパーなどで手に入りやすいチーズはたいだいこれくらいであること、そして予算の兼ね合いです(ごめんなさい)。では、いってみましょう。
▼▼▼調理開始▼▼▼
と、いっても調理は非常に簡単。市販のピザ生地の上にそれぞれのチーズをトッピングしていくだけです。そんなこんなで調子にのってチーズを乗せまくっていたところ……、
チーズを置く場所がもうない(まだ10種類目)。
そうか、世間の人がチーズ20種類のピザを作らない理由のひとつがわかった。通常のピザ生地の上には20種類もチーズは乗らない。
ムリヤリ乗せた。
とんでもないチーズの量になってしまった。チーズの塩分量はかなり高い。これ一枚食べたら塩分過多で死ぬんじゃないだろうか……。
とりあえずオーブンへ。
火を入れ始めて数分後、予想していなかった変化が。いや、これくらい予想しとけよ、という話なのだが、
すんげぇにおいだ。
香りが強いブルーチーズだけでもゴルゴンゾーラ、ダナブルー、ロックフォール、リシュモンブリーの4種類が入っているためか、まるで化学反応を起こしたかのような強烈な異臭が。どれくらいくさいかというと、同居人が「死体の処理でもしてるのか!?」と怒りながら部屋にやってくるくらいの臭さ。どんなにおいやねん。
だが、もう引き返せない。
(チーズ乗せすぎのため、ピザの縁から垂れまくる)
ピザの上で溶岩のように煮えたぎるチーズ。うん、美味しそうではある。でも同時に「なんか地獄みてぇだな」と思ってしまったのは気の迷いでしょうか。生前にチーズを粗末にしたら落ちる地獄的な。まぁ、その場合、私は確実にそこに落ちるわけですが。
そんなことを考えているうちに……、
▼▼▼完成▼▼▼
20種のチーズのピザ
すごい。表面の100%がチーズだ。匂いはもう嗅覚が麻痺してしまってよくわからない。とりあえずあっつあつを試食してみます。
ぱくっとな。
……、
うーん、
やばい、リアクションが取りづらい。
味はとりあえず美味しい。レストランでこれが出てきても文句はない。けれど、なぜこういう含みのある言い方になってしまうかというと、とにかく大味なのだ。
ちょっと試しにオリジナルの4種のチーズのピザを食べてみましょう。
生地にクリームチーズを塗り、モッツァレラ、ゴルドンゾーラ、パルミジャーノを適当に配置、
チーズがとろけるまでオーブンでしばし、
んで、食べる。
うん、美味しい。これは間違いない奴だ。
味わいに立体感と奥行きがある。クリームチーズのほのかな甘さとゴルゴンゾーラの刺激、パルミジャーノの旨味、モッツァレラのとろりとした食感がそれぞれを引き立てあって、一品料理としての完成度が非常に高い。
これと比べると20種のピザは確実に見劣りしてしまう。
うーむ、なぜだ。
わからないことは知っている人に聞くのがベスト。ということで、チーズソムリエで、フランスチーズ鑑評騎士やチーズプロフェショナル協会(CPA)認定チーズプロフェショナルなどの資格をもつ梶田泉先生にお話を聞いてきました。
▲梶田先生。TBSテレビ「マツコの知らない世界」にも出演。その膨大なチーズの知識はマツコ本人からも絶賛されたそうな
Q:なんでチーズを20種類にするとそんなに美味しくないんですかね?
梶田先生(以下、梶田)「チーズの種類を増やすと、ひとつひとつのチーズの分量は少なくなりますよね。するとそれぞれのチーズの特徴が分かりづらくなりますから、結果的に漠然としたどっちつかずの味わいになったのだと思います」
Q:なるほどー。「4種のチーズのピザ」の4種類というのはそれぞれのチーズの個性を際立たせつつ、互いに味を補完しあうバランスの取れた組み合わせということなんですかね。
梶田「そうですね。だから4種のチーズのピザに使われるチーズは個性がそれぞれ異なるんですよ。あっさりしていてよく伸びるモッツァレラ、うま味が強いパルミジャーノ、香りと塩気が刺激的なゴルゴンゾーラ、優しい味わいのクリームチーズ。
それに対し、今回の20種のピザには味わいが似たチーズがたくさん入っていました。例えば、ゴーダ、マリボー、サムソーは製法や味がほとんど同じなんです。これも味が平坦になった理由かも知れません」
Q:ちなみに、通常の4種のチーズのピザに追加して美味しくなるチーズってありますか?
梶田「通常の4種とは異なった味わいのチーズを加えると、もっと奥行きが出ると思います。例えば濃厚でコクのあるチェダー。また、今回用意した中にはありませんが、タレッジォという酸味があるイタリアのウォッシュチーズを足してみても面白い味になるかも」
と、いうわけで、4種のチーズにチェダーチーズを加えた「5種のチーズのピザ」をつくってみることに。本家の味を超えられるのか。
チーズを配置。なんだか可愛らしい色合いに。
オーブンへ。
お、いい香りがしてきました。モッツァレラの白とチェダーのオレンジがいいコントラスト。期待が高まります。それでは、いざ試食。
うん、うまい!
4種のピザにコクが加わり、なんとも贅沢な味わいに。それでいてそれぞれのチーズの個性が楽しめるので、口の中が楽しい。
4種と5種、どちらが美味しいかと聞かれればおそらく人によって好みが分かれるところかと思います。すっきりした味わいが好きなら4種、リッチな味わいが好きなら5種ですが、どちらも料理としてしっかりと成立している……!
というわけで、今回の企画、結論になります。
20種のチーズのピザは4種のチーズのピザよりうまくはない
4種のチーズのピザは4種である理由がある
そして、4種のピザに一品足すならチェダーかタレッジョ!
最後になりましたが、梶田泉先生、ご協力ありがとうございました。
取材協力:梶田泉(チーズソムリエ)
フランスチーズ鑑評騎士、チーズプロフェショナル、マスター・オブ・チーズなどの資格をもつ。チーズの魅力を学べる教室を東京・恵比寿で主宰しており、初心者向けの楽しい講座から、プロ対象の本格的な講座で教鞭をとる。近著に「楽ウマ! チーズレシピ ~簡単おつまみからとっておきのご馳走まで85品。」(宝島社)がある。
HP:http://www.cheese-school.jp/
フランスチーズ鑑評騎士、チーズプロフェショナル、マスター・オブ・チーズなどの資格をもつ。チーズの魅力を学べる教室を東京・恵比寿で主宰しており、初心者向けの楽しい講座から、プロ対象の本格的な講座で教鞭をとる。近著に「楽ウマ! チーズレシピ ~簡単おつまみからとっておきのご馳走まで85品。」(宝島社)がある。
HP:http://www.cheese-school.jp/
(ニノマ)