【53年前の日本】を紹介した米国の教育番組がいろいろとおかしい

2016/7/3 11:48 服部淳 服部淳


どうも服部です。昭和の動画を紐解いていくシリーズ、今回はYouTubeに投稿されていた「A boy's life in changing Japan 1963(変わりゆく1963年の日本に暮す少年の生活=著者訳)」という映像を取り上げました。1963年ということで、昭和38年。1回目の東京オリンピックが開催される前年です。

Coronet Instructional Filmsという、米国の学習用ドキュメンタリー映像を制作していた会社による作品で、映像には英語のナレーションが付いています。早速見ていきましょう。
※動画はページ下部にあります。


物語の主人公は、映像内でイトー(伊藤もしくは伊東さんなのでしょう)と呼ばれるこちらの少年。無類のたこ揚げ好きのようです。


たこが上がっていくと、イトーは自分がたこの上から世界を見下ろしているような気分になるようです。


イトーの家族が所有する田んぼが見え、


こちらはイトーの一家が暮す村。


イトーが通う小学校の校庭も見えます。イトー、まだ授業中では?


時には、たこのさらに上空を飛行機が通過していきます。


イトーはそれを見て、いつかは自分も遠くの国に行ってみたいと思いを馳せますが、実はイトーは家の周りから離れたことすらないのだそう。


夕食の時間です。右手前からイトー、イトーのおばさん、お父さん、お母さん、妹のユキさんという順。


イトーのおばさんが、こどもの日の前日に街へ行くと言います。イトーは街へ行ったことがないから一緒に行ってみたいと思っていたところ、


お父さんからお許しが出ます。しかも、お小遣いをくれ、好きなものを買ってきてもいいのだそう。


そして、この表情です。




こどもの日の前日がやって来ました。現在なら「みどりの日」で祝日ですが、当時は普通の日。1963年のカレンダーを見ると5月4日は土曜なので、午前中だけ学校に行き、帰って来てからのお出掛けでしょうか。それにしても、お出掛け前に家族とお辞儀って不自然ですね。制作側の演出かもしれません。


田んぼのあぜ道を歩いていきます。後ろに何やら看板が見えます。


拡大したものがこちら。「灸の峯」と思いきや、右書きで「峯の灸」のようです。 神奈川県横浜市磯子区にある円海山護念寺というお寺に伝わる有名なお灸とのこと。看板左端には「ここで下車」と書いてあるのが読めます。円海山護念寺の最寄り駅そばなのでしょう(カメラマンの背後に駅があるのでは?)。


さらに砂利道を歩いていきます。斜面ではお茶や桑の葉が栽培されています(映像で紹介あり)。木製の橋を渡り、


寄り道して、海で漁船を見学。おばさんから、早く行こうと手招きされています。


ようやく駅に到着です。東京から神奈川にかけて走る京浜急行の電車が入って来ました。YouTubeに付いている地元の方のコメントによると、「屏風浦(びょうぶがうら)駅」とのこと。「峯の灸」近辺からだと、だいぶ距離があるようですが。


電車に乗るのも、きっと珍しいことなのでしょうが、イトーはあまり嬉しそうではありません。ナレーションいわく「多分、たこを持ってくることができなかったからだろう」と。そこまで……。


運転席は多くが木製で、趣があります。


車掌さんが吹く、出発合図の笛の音が懐かしい。車両はデハ300形でしょうか。


走行中の車両を捉えたものは、先ほど止っていたものとは異なる形式のようです。円形の行き先表示には「品川」と書いてあるように見えます。


沿線に見える工場や煙突は、イトーにとっては物珍しいもののよう。


車窓から見える昔の横浜「大さん橋」。


そして、多摩川でしょうか、川を越えて東京に向かうのか……、


と思いきや、着いたのは横浜の伊勢佐木町。JR関内駅近くです。合併・消滅はそんなに昔ではありませんが、三和銀行の看板が懐かしいですね。


ナレーションいわく、初めて見るビルなど、都会の印象はイトーが想像していた通りに素晴らしいものだったそう。横浜市に住んでいるのに、この歳で初めて都会を見るとか……。アメリカの片田舎に住んでいるわけでもないのに。


「たくさんの人がいて」「現代風の服装の人がいて」


「昔ながらの和服を着ている人もいて」


「たくさんの車やトラック、バスが走っています」と、まるで外国人並みの驚きようです。


おばさんに導かれてやって来た1軒のお店。おばさんがチェックしている雑誌のラックには、輸入洋裁雑誌の「burda」などが見えます。


一方、じっと見つめているイトーの視線の先にあるのは……、


たこ紐でした。他のものには興味はないようで。




翌日、こどもの日です。妹のユキさんに五月人形について語るイトー。


ユキさんが、お友だちのおうちに五月人形を見に行くと約束していたので、イトーと一緒に出掛けます。イトーの家の大きな鯉のぼりが見えます。


ユキさんのお友だちに出会いますが、イトーはほぼスルー。やりたいことがあるのです。


もちろん、たこ揚げです。


糸を出しきったら、そう、昨日買ったたこ糸をつなぎ合わせます。これがやりたかったんです。


すごく高くまで上がりました。ここまで上がれば、昨日行った都会まで見えるのでは、とナレーション。


そしてまた、たこの上空を飛行機が飛んでいきます。


その時、飛行機とは関係ないはずですが、強い風が吹きます。イトーは必死にこらえますが……、


ついには手を離れ、たこは空高く飛んでいってしまいました。


大切なたこを失ったイトー。悔しいし、悲しいです。


でも、イトーは考えました、とナレーション。新しい糸を買い足したおかげで、たこはさらに高くまで行けるようになり、イトーから自由になった今、もっともっと高くまで行け、世界をも見られるようになったのではないかと。


そう考えると、イトーはたこを失ったことを気にならなくなったようです。なんとポジティブな思考。きっと素晴らしい大人になられたことでしょう。



ツッコミどころもいろいろありましたが、昭和30年代の貴重な景色を鮮明なカラーで堪能できる価値ある映像でした。10分弱と短めなので、ぜひ映像でもご覧ください。引き続き、歴史の1ページを紐解いていければと思います。

(服部淳@編集ライター、脚本家) ‐ 服部淳の記事一覧



【動画】「A boy's life in changing Japan 1963(1963年、変化する日本と一人の少年の生活)」