15歳のポルノスター?美少女トレイシー・ローズの過酷な半生

2015/11/26 15:00 星子 星子



2016年1月30日(土)より公開の主演映画『ブラック・スキャンダル』が話題のジョニー・デップ。そんな彼の初主演映画『クライベイビー』を覚えていますか?

カルトムービーの帝王、鬼才ジョン・ウォータス監督が、50年代青春映画のイメージをそのままミュージカル仕立てにした、ブラックユーモア溢れる作品で、まだ美少年といった風情のジョニーが、リーゼントにピチピチジーンズで歌って踊る1990年製作のアメリカ映画です。





そんな『クライベイビー』の中で、美しいブロンドの前髪をパツンと短く揃えて真っ赤なドレスを着た、個性的でセクシーな美少女ワンダを演じていたのが、トレイシー・ローズです。





「トレイシー・ローズはこの映画に出演する前、人気絶頂のポルノ女優だった」と聞き、どう見ても美少女といった佇まいに「一体、何歳でポルノ映画に出ていたんだ?」と思って取り寄せた伝記本の帯には「15歳のポルノスター」というありえないキャッチコピーが記されていました。

当時のアメリカでも、もちろんそんなことが法的に許されるはずはなく、FBIを巻き込んだ大スキャンダルを起こしたトレイシー。今回は、そんなどん底から、メジャーな映画で当たり役を射止める女優になった経緯を、『トレイシー・ローズ 15歳の少女が、いかにして一夜のうちにポルノスターになったのか?』を参考に、ご紹介します。





1968年、オハイオ州で生まれたトレイシーの本名はノラ・ルイーズ・クズマ。10歳のとき、当時16歳のボーイフレンドにレイプされ、実母が再婚した義父からは性的虐待を受けるような、悲惨な幼少期を過ごします。





母親の元夫、つまり元義父である男性にポルノ雑誌モデルの仕事を紹介され、ギャラを搾取されるような過酷な経験をして、ローティーンのうちに重いトラウマを抱えます。麻薬も味も覚えた15歳の時には、年齢をごまかしてペントハウス誌のセンターフォールドを飾り、その幼い顔と豊満な肉体でアメリカのポルノ業界で一世を風靡します。





10代半ばでポルノ・ムービー・オブ・ザ・イヤーに輝くなど、業界ではスター級の成功を収めますが、ギャラの搾取を阻止された義父の密告により年齢詐称が明るみに出て、警察やFBIに保護されます。彼女を助けに来たはずのFBIですが、伝記本の中では、好奇心剥き出しの目で彼女の素行不良を責める捜査官の、下品な態度に傷く気持ちも記されています。





その後、ポルノ業界から足を洗ったトレイシーは、真面目に演技を学び、マスコミからの好奇の目にさらされながらも一般映画やドラマのオーディションに果敢に挑戦します。『美女とエイリアン』などの映画に出演し、前述の『クライ・ベイビー』ではジョニー・デップとも共演し、着々と女優としてのキャリアをつみあげます。





10代半ばでポルノに出演し、2回り以上年上のヒモ男を養い、数々の男性経験を重ねてきたトレイシーですが、伝記本の中では『クライ・ベイビー』の撮影中、同世代のジョニー・デップとたまたま部屋で2人きりになった時、顔が近づいただけで緊張してしまい、部屋から逃げ出してしまうエピソードが記され、それでいて、「彼には女優の彼女がいるっていうけれど、可愛いのかしら?」とドキドキしながらジョニーを意識する可愛らしい一面が、切なく描かれています。ちなみに、当時のジョニーの彼女は、年上女優のジェニファー・グレイでした。





自分のヌードが掲載された雑誌を同級生の男子に手渡されて馬鹿にされた傷を抱えたまま高校を中退したトレイシー。親子ほど年の離れた男性を相手に手玉にとったり、逆に搾取されたり、ハードな恋愛ゲームを経験してきたにもかかわらず、同世代の美少年にはとことん免疫がない姿が、悲しいほどリアルに胸に迫ります。





ジョニー・デップやリッキー・レイクなど若い演者やスタッフに囲まれ、義父やポルノによって断ち切られた青春を取り戻したかのように撮影を満喫するトレイシー。映画の撮影中に、再び突撃してきたFBI捜査官に事情聴取されて落ち込む彼女に対して、仲間たちが口々に「自分も警察のご厄介になったことがある」と、若い過ちを告白しあって慰めようとする姿は、暖かい思いやりに満ちています。後に彼女は、同映画のキャスティングディレクターの息子でもあるスタッフのブルックと恋に落ち、最初の結婚をします。





結婚後も、マスコミに追われる日々は続き「元ポルノスター」という汚名は消えないものの、開き直った彼女は、地道な努力と知名度を武器に、演技派女優としても礎を築きます。TVドラマなどで順調にキャリアを伸ばすトレイシーですが、裏方スタッフだった夫との間にできた距離を溝を埋めることができず、離婚を決意します。





また、自伝本によると、トレイシーはあの『ガンズ・アンド・ローゼズ』のギタリスト、スラッシュにもデートに誘われたとのことですが、結局、彼の家に行ったものの、彼が飼っていた巨大な蛇に恐れをなして、そのまま帰ってきてしまい、残念ながら交際には至らなかったようです。





後に彼女は、昼間は鉄工員として働き夜はバーテンをしているジェフリー・リーと二度目の結婚をします。現在、彼女は女優を続けながら、家出少女たちの保護施設を運営しているとのことです。

幸運にも美しく生まれた少女は、貧しい家庭環境と好奇心旺盛な性格によって過酷な世界に堕ちてゆきます。そのことは、とても不運なことでもありますが、そのまま麻薬漬けになり不幸なまま消えてゆく少女が多々いる中で、彼女は持ち前のポテンシャルで普通以上のラッキーを掴み取っていきます。





過去の過ちは一生変えようがないことではあるものの、それを逆手にとってでも、未来は変えられる。そんな気持ちにさせてくれる伝記本『トレイシー・ローズ 15歳の少女が、いかにして一夜のうちにポルノスターになったのか?』(野沢敦子訳、WAVE出版)ご興味のある方は是非一度、お手にとってみてはいかがでしょうか。

参考
※ 『トレイシー・ローズ 15歳の少女が、いかにして一夜のうちにポルノスターになったのか?』(野沢敦子訳、WAVE出版)

(星野小春)