映画史上初めてヌードになった美女ヘディ・ラマーは天才理系女子だった

2014/10/16 11:30 星野小春 星野小春


日本人研究者3人のノーベル物理学賞受賞が話題になっていますが、みなさんは理系女子はお好きですか? 美しすぎる科学者、美しすぎる理系女子…数年前から美人な専門家に“美しすぎる”という枕詞をつけるのが流行っていますよね。最近では、その言葉のイメージも、ちょっと変容しているように感じます。



普通に考えて充分優秀でキレイなお嬢さんだったとしても、“美しすぎる”という枕詞をつけたばっかりに、“美人じゃない”“かわいくない”などというコメントがついてしまったりして、もはや“美しすぎる”という枕詞は本人にとってはマイナスにしかならないのではないか……むしろ自分の手は汚さず他者に悪口を言わせるための遠まわしの意地悪になってしまうかもしれない、と思うと使う方も慎重になってしまいます。



それでもなお、ついついその枕詞をつけたくなるような才色兼備な女性が、1914年、ちょうど100年前のオーストリアで誕生しました。ヘディ・ラマー。これまでスクリーンに現れた最も美しい女優の一人と言われ、現代の無線LANのもとになった“周波数ホッピングスペクトラム拡散”に関する特許を取得した発明家でもある女性です。


■ 大富豪との結婚から逃亡し女優復帰



ヘディ・ラマーは1914年、オーストリア・ウィーンで、銀行家の父親とピアニストの母親のもとに生まれました。17歳で女優デビューし、2年後に「春の調べ」でヒロインに抜擢され、映画史上初のフルヌードを披露します。



20歳で大富豪でもあるフリッツ・マンドルというユダヤ人武器商人と結婚しますが、嫉妬深い夫が愛妻のヌードが映る「春の調べ」のフィルムを買い占めようとしたり、豪奢な館に妻を閉じ込め束縛しようとしたため、召使のコスチュームを着て屋敷を抜け出し逃亡、ハリウッド女優として再デビューを果たします。


■ あのヴィヴィアン・リーも真似した?



ハリウッドではセシル・B・デミルの「サムソンとデリラ」などに出演。美女と言えば金髪が主流であったハリウッドの風潮をガラッと変える神秘的なブルネットとクールな美貌で瞬く間に注目を集め、当時の人気俳優クラーク・ゲーブルとも共演します。



クラーク・ゲーブルといえば、彼女の写真を見て「誰かに似ている」とお思いの方も多いと思います。後に「風と共に去りぬ」で大スターとなるヴィヴィアン・リーも彼女のファンで、顔立ちも似ていることもあり、髪型やメイクなどを参考にしていたと言われています。



生涯に6 回結婚し、彼女に捨てられた婚約者の自殺などのスキャンダルも相俟って“男を破滅させる魔性の女”という評判がついてまわりました。女優として活躍する一方で、最初の夫である武器商人から武器知識や無線技術を学び、専門家といって良いほどの知識を身につけます。


■ 独学で身につけた理系知識の物凄さ



ユダヤ系の血筋だった彼女は、ナチスを嫌っていたようです。ヒトラーの愛人だったために自殺した友人もおり、とりわけヒトラーには反感を持っていました。そのため、自分の知識がアメリカ軍に役だてば……と無線技術の研究に没頭します。



パートナーでもある世界的に有名なミュージシャンのジョージ・アンタイルがピアノの鍵盤を叩いている時に、音が次々と切り替わることからアイディアを得て、無線周波数を切り替えて魚雷を誘導する“周波数ホッピングスペクトラム拡散”を発明、特許を取得したと伝えられています。




■ 晩年…栄光と闇の狭間で

“周波数ホッピングスペクトラム拡散”は現在、携帯電話・無線LANに応用されており、当時の米国国防省で機密扱いになっていましたが、時を経て解禁され、1997年の「EFF Pioneer Awards」特別賞を受賞しています。彼女は2000年に85歳でなくなりましたが、ようやく時代が彼女に追いついた21世紀直前・80歳を過ぎて、栄えある賞を受け取ることになります。



ヘディ・ラマーは「私がもし不幸であったならば、それは私の美貌ゆえだ。」という名言を残しています。どう立ち回っても波乱万丈な方向に転がりがちな“美のデメリット”をも客観的に受け入れてしまう所も、リケジョらしい分析力です。



残念ながら、そんな悲しい自己分析は外れてはいませんでした。類稀な才能を持った人の例に漏れず彼女もまた、心に深い闇を抱えたタイプの女性でした。晩年は金銭的に不自由をしていないにも関わらず繰り返し万引きで逮捕され、そのたび、軍の功労者であることもあり、あとで代金を支払うことで不起訴になっていました。



美貌や才能や頭脳など、人並外れて多くのギフトを与えられた人物であるほど、老いとともにそのスペックをひとつずつ返却する段階で、心身に過剰な負担がかかりそうですよね・・・・・・。彼女の晩年の奇行を思うと、才色兼備すぎたゆえの、揺り返しの激しさに恐怖すら感じます。



光が強く当たる人は影も濃い、と言われていますが、そんな自分の闇の部分を冷静に理解しつつも臆せず、与えられたスペックを余すところなく使い切って天寿を全うした稀有な存在。そんな女優の人生を、生誕100年目の2014年にあらためて紐解いてみました。

(星野小春)