『大豆田とわ子と三人の元夫』放送直前。松たか子が「ナメられがち」な三つの壁があった。

2021/4/7 22:00 龍女 龍女

松たか子(1977年6月10日生)は、万能型の俳優として父・二代目松本白鸚の系譜を受け継いだ。
ただし、女性であったので、歌舞伎俳優としての芸風は兄の十代目松本幸四郎が継承した。
万能型ゆえ、舞台・映画・TVドラマともに実績を積み上げつつあるが、まだ伸びしろがある。
コラムどころか、評論として書けるだけの分量の持ち主である。
そこで今回は、松たか子にまつわるTVドラマと少しだけ音楽に限って考察してみた。
一応肩書きは、「俳優・歌手」とある。
そこを掘り下げないと松たか子のタレント性を正確に捉えることは出来ないはずである。


①デビューの頃

テレビドラマのデビューは、大河ドラマ『花の乱』(1994年)。
主人公・日野富子(三田佳子)の少女時代であった。
テレビドラマのデビューが、大河ドラマという人は特別なコネがある。
しかし、コネというのは紹介する人の信用性で成り立っている関係だ。
第三者の立場だと最初はついついナメてしまう人間関係の一つがコネと言えるだろう。

では松たか子にあったコネとは何だったのだろう?
大河ドラマの歴史そのものを知れば自ずとわかる。

『花の乱』の脚本家は、市川森一(1941~2011)である。
大河ドラマは3作描いて、『花の乱』は最後の作品であった。

第1作目は1978年の『黄金の日日』で主役は当時六代目市川染五郎であった、父・松本白鸚である。
第2作目の1984年『山河燃ゆ』でも、主役は九代目松本幸四郎になっていた松本白鸚である。
『花の乱』のテーマが応仁の乱で継承争いだ。
大河ドラマ上で市川森一の世界観の化身である松本白鸚(少ない出番だが花の乱にも登場)の娘の起用は必然であった。
相手役は、足利義政(一二代目市川團十郎)の少年時代を演じた実の息子の市川新之助、今の市川海老蔵であった。

ただし、市川森一は、1990年代頃はワイドショーに出たり、日本アカデミー賞の授賞式の解説者として、当たらない予想をして、面白いおじさん的存在になっていた。
すでに時代遅れのドラマの脚本家だと一視聴者としてナメてかかっていた。
日テレで放送された『野望の国』(1989年)がつまらなかった。
『花の乱』が大河ドラマとして面白かったどうかは微妙だったのだ。

松たか子が初めて主役を演じたのは1995年の宮尾登美子原作のドラマ『蔵』である。
このように恵まれたスタートラインであった。
映像メディア以外を知らないと、ついついぽっと出に思えてしまう。
しかし、日本舞踊松本流の名取の資格を持つ技能もあり、舞台経験は七歳の頃からあるらしい。
兄の松本幸四郎が、トーク番組で幼少期を語ると必ず兄妹で芝居ごっこをしていた エピソードも聞く。
しかし、大河ドラマの性質上、数多く出てくるベテラン俳優とついつい比べてしまうと演技が未熟だったのも否めない。


②フジテレビドラマ黄金期

松たか子の20代に入っての代表作はほぼフジテレビのドラマの全盛期に集中している。
団塊の世代の次に多い団塊ジュニア(1971~74年生)の視聴者と年齢が近いことも幸運に働いた。
フジテレビには『黄金の日日』を高校生の時に観た世田谷の青年も、脚本家の一人として出入りしていた。


三谷幸喜は、九代目松本幸四郎を主役に名作ドラマを描いた。


『王様のレストラン』(1995年4月~7月)である。

一方、松たか子は最初のフジテレビのドラマの出演は、同じく三谷幸喜脚本の翌年の作品だった。
古畑任三郎2nd season(1996年1~3月)。
1st seasonから数えて通算第21回の『魔術師の選択』(1996年2月28日)で犯人役は山城新伍である。

それからわずか2ヶ月後に月9の金字塔『ロングバケーション』に出演。
このドラマの中では瀬名英俊(木村拓哉)を振る大学の後輩の奥沢涼子役だった。
おそらく起用された理由は、主人公の瀬名がピアニストであったため、ピアノの心得があり、お嬢様という役のイメージにピッタリだったからだろう。

『ラブ・ジェネレーション』(1997年10~12月)では、主人公片桐哲平(木村拓哉)の恋の相手である上杉理子役で月9のヒロインを初めて演じることになった。
当時大学一回生だった筆者も毎週欠かさず一人暮らしの学生アパートで楽しみに観ていた。
主題歌が大滝詠一の『幸せな結末』だった。
どうせハッピーエンドになるのだろうと思いながらも、
二人の芝居の掛け合いが抜群で、笑ったりドキドキした。

そして、2001年に今度は木村拓哉と名コンビは色恋ではなく仕事の相棒役という設定になった。
『HERO』の雨宮舞子である。
木村拓哉の「アマミヤ!」の言い方が脳裏によみがえってくる。


『ロングバケーション』ではお嬢様で鈍感。
『ラブジェネレーション』では腰掛けOL。
『HERO』では、検事の野心がある事務官。
見方を変えると嫌な性格の女ばかりである。

ここでの松たか子のナメられポイントは、スタッフや二世俳優だから贔屓されて良い役ばっかり演じつづけているんじゃないか?
であるが、継続できるには本人の実力がないと認められない。

それ以外の松たか子とフジテレビのドラマは連続モノに限って言うと『お見合い結婚』(2000年1~3月)と『役者魂!』(2006年10~12月)と火曜日の21時に放映されたモノがある。
「月9のヒロイン」を卒業した松たか子は「火曜のヒロイン」に成長していく。
火曜日というのは土日に売り上げが集中するためスーパーが特売日になることが多い。
節約術の知恵の一つである。
30代以上の主婦の視聴者が多い時間帯のドラマの主役に移行してきたのだ。
2007年に松たか子は結婚する。
2008年にはリーマンショックがあり、他局に比べ多額の予算をかけて制作しがちなフジテレビドラマの全盛期は終わった。

松たか子の俳優として開花するのは、
嫌みに見えた育ちの良さを拡大解釈した役、特に映画『告白』(2010年)『小さなおうち』(2014年)においてであるが、
それはまた別の話(『王様のレストラン』における森本レオのナレーションの決まり文句)

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