なぜ『科捜研の女』は沢口靖子で20年も続けられたのか?(2/2)

2021/1/20 22:40 龍女 龍女

その親友が薦めた、1984年の第1回東宝シンデレラオーディションで、グランプリを獲得。武田鉄矢が脚本・主演を務める『刑事物語3 潮騒の詩』でデビューしている。

筆者が観た初めての沢口靖子出演作品は
1984年版の『ゴジラ』だった。


(イラスト by 龍女)

特撮モノの典型的なヒロイン役で、当時の観客だった小学生の筆者はホームレス役の武田鉄矢の方が印象に残っている。

彼女を一躍有名にしたのは、朝ドラ『澪つくし』だが、残念ながら観ていない。

筆者に大きな印象を与えた出演作品は86年の『痛快!OL通り』と88年の『痛快!ロックンロール通り』である。『教師ビンビン物語』も手がけた矢島正雄が脚本を担当した。

『痛快!OL通り』の方は、小堺一機ファンとしては、沢口靖子と小堺一機のキスシーンで終わったのが印象深い。

『痛快!ロックンロール通り』の方は、沢口靖子のコメディエンヌとしての注目作品でもある。

当時の国民的美少女、後藤久美子と姉妹役。猪突猛進のバスガイドで音痴なのにロック歌手に憧れているという、ぴったり過ぎる役柄である(その後の作品にも繋がるが、猪突猛進という四文字熟語は彼女の性格を現すのに、これ程適切な言葉はない)。

世間的には、関西弁を解禁した金鳥の「タンスにゴンゴン」のCM(1999年から2006年ごろ)で認識されたと思うが、ドラマ放送当時中学生だった筆者は

「沢口靖子はコメディが合っている」
ことは一視聴者として気がついていたのである。

コメディが似合う俳優には、大きく2種類いる。
当コラムの第1回で取り上げたムロツヨシや大泉洋のような、喜劇の訓練を受けているプロフェッショナル。
一言で言えば、器用な人。

もう一方がその対極にいる不器用な人。
それも性格的に生真面目でなければならない。喜劇の構造上、生真面目な人が何かしようとして困っている様子はそれだけでおかしい。

しかし、後者のタイプは、生粋の喜劇人ではなく、普段はシリアスな芝居をやっている人の方がより際立つ。
つまり、脚本か演出のさじ加減でしかない。

舞台であるが、WOWOWで放送された『熱海五郎一座・天然女房のスパイ大作戦』の沢口靖子が抜群に良かった。



今回の主題である『科捜研の女』は1999年から始まっている。第5シリーズから、別の役で出ていた内藤剛志が土門薫役で登場。内藤剛志がブレイクのきっかけになった1991年関西テレビ『ホテルウーマン』でも共演しており、名コンビである。

(イラスト by 龍女)

初期はちょうど金鳥のCMと重なっていたので、コミカルな要素が多かったそうだ。
常に進化する科学捜査のやり方で捜査する過程が見せ場。
途中で、監察医風丘早月(若村麻由美)が監察結果と持参する差入れの菓子がちょっとした息抜きになっている。

他のドラマでは定番の登場人物がたまり場にする飲み屋。
最近のシリーズでは登場しないので、このシーンが案外重要な要素になっている。
榊マリコは料理が苦手なので、関心が薄いと言う設定の為の苦肉の策だろう。

俳優人生の中で30代後半から40代にかけて当たり役に出逢った人は非常に幸運だ。

沢口靖子が演じる『科捜研の女』の主人公、榊マリコ。キャラ設定は、男女雇用機会均等法が制定された1985年以降に出てきた大卒のキャリアウーマンの造形として、非常に興味深い。

80年代後半のバブルの恩恵も受けているので、未だに貧乏くさい感じはない。
仕事熱心なあまり未だに料理な下手な女性が出てきたとしても不思議ではない。
また、独身であっても不幸に描かれておらず、これはそういう生き方なのだと、淡々とした印象にも見える。

俳優が演じるキャラクターは、時代を映す鏡だ。
1984年の第1回東宝シンデレラとしてデビューした沢口靖子は、未だに同世代の女性像を演じることで輝き続けている、実に幸運な俳優である。

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写真:タレントデータバンク
沢口靖子|1965/6/11生まれ|女性|A型|大阪府出身)

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