これを読めば、もうトシをとるのはコワくない!「くそじじいとくそばばあの日本史」

2020/11/24 19:00 吉村智樹 吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第28冊目は、発売早々に、なんと4刷!
売れに売れている話題の新書「くそじじいとくそばばあの日本史」です。





■お年寄りに関するニュースはなぜ暗いのか


お年寄りについての報道を見たり聞いたりするたびに、どんよりとした心持ちになります。明るいニュースである場合が少ないのです


老人ホームやデイサービスでのクラスター発生、80歳以上のお年寄りが50歳以上の引きこもる実子を支える「8050問題」「キレる暴走クレーム老人」という社会問題、自動車暴走死傷事故の「上級国民」ぶりなど、気がめいってしまうのです。


政治のニュース映像を見れば、ご高齢の財務相が「消費税を引き下げるつもりはない」と頑固一徹、一点張り。国民の命綱だった特別定額給付金ですら「貯蓄にまわってしまった」と、失敗だったというニュアンスの発言をしていて驚かされます(銀行振込なんだから、いったん貯蓄されて当然なのですが……)


「もっと明るいWebサイトを読もう」とスマホの画面をエンタメ系サイトへ移しても、表示されるのは「老人性乾皮症」「老人性色素斑」など加齢によるお肌の老化を警告する広告ばかり。アンチエイジングにも限界がありますから。人は誰も皆、老いから逃れることはできません。だのにこうも脅かされると、だんだん歳をとるのが恐くなっていきます





■しぶとくたくましく生きた「くそじじい&くそばばあ」


そんな鬱屈した気分をパ―――ッ!と晴れさせてくれるのが、ベストセラー驀進中話題の新書「くそじじいとくそばばあの日本史」(ポプラ新書)。


著者は大塚ひかりさん。源氏物語の現代語訳や「古事記 いのちと勇気の湧く神話」「本当はひどかった昔の日本」「女系図でみる日本争乱史」など古典をひも解いた著書を多く執筆しているエッセイストです。


新刊「くそじじいとくそばばあの日本史」は、文字通り、よくも悪くも日本史上に強烈な光彩を放つご老人たちの烈伝を集めたもの。


81歳で政界デビューし、百歳過ぎまで政界に君臨した天海や、77歳で二十代後半の盲目の女性とのセックスにおぼれた日々を記録し続けた一休さん(一休宗純)など、ひとクセもふたクセもあるスーパー・シニアたちが大暴れ。また、敬老という概念が乏しく、お年寄りを厄介な存在として扱った過去の日本において(敬老の日が国民の祝日になったのは昭和41年)、しぶとくたくましくエネルギッシュに生き抜いた人々の記録でもあるのです。





■リスペクトを表す「くそ」


「くそじじい」「くそばばあ」という呼称は、本書では言わずもがな、お年寄りを侮辱することばではありません。愛着を示す「くそ」であり、パワフルさを表す「くそ」であり、さらに大塚さんの熱いリスペクトの気持ちがクソほど込められています。毒蝮三太夫さんが敬老の想いを込めて言い放つ「長生きしろよババア!」という毒舌、あのニュアンスですね。


著者の大塚ひかりさんは幼少期から、長谷川町子さんが描く漫画『いじわるばあさん』に頻繁に登場する「クソばばぁ」というセリフがとても好きだったのだそう。いじわるばかりしているのに憎めない老婆の姿にダークヒーローのカッコよさを感じていた様子。本書のなかには正直「このじじい、ひでえな」と思ってしまうおじいさんも紹介されているのです。が、大塚さんはその人間くささを愛しながら書き進んでいきます。


とにかくもう、登場するお年寄りたちが爽快なまでに豪快。陰で国家運営を操っていた90歳近い女性、八十代で権力を奪い合った兄弟、宗教家でありながらさらなる権力ポスト欲しさに目上の老僧を毒殺しようとした七十代の僧侶、七十歳を過ぎて結婚詐欺を目論んだ尼僧、どいつもこいつも……いやいや、どの高齢者も欲望がギンギラギンに漲っています。嫉妬深く、ひがみがちで、キレやすい。出世欲、権勢欲、独占欲、自己顕示欲、金銭欲、性欲、食欲など俗欲が枯れることなく全開バリバリ。そんなシルバー・スターズが勢ぞろいなのです。思わず「人は歳を重ねると丸くなるってウソだったのかよ!」と声をあげたくなります。





■日本史上のくそじいじは明日の私かもしれない


でも……魅力的なんですよ、どのおじいさんも、おばあさんも。みんな、かわいい。愛おしいんです


なぜ、愛おしく感じるのか。本書で紹介される歴史上の「くそじじい」「くそばばあ」たちの見苦しい行動の背景には、孤独に対する恐怖、地位を追われる恐怖、そういったおそれがあります。だから策略し、だまし、人のせいにし、フェイクニュースを流す。そのあたりに「わかるわかる」と、善悪を超えた共感が胸の奥底から湧いてくる。自分だってそんな人間ですから。だから、愛おしい。


色恋の感情を自分で抑えられない老人も、この本には少なからず登場します。老いてなお恋愛感情を抱いてしまう点も、これもまた恐怖ですよ。中高年の恋なんてほとんどが不倫ですし、明るい結末を迎えるケースなんてほぼありませんから。古事記の時代から令和に至るまで、日本に住む人々は色恋沙汰の問題を解決できませんでした。マッチングアプリによる事件報道を見るにつけ、歴史って地続きなんだなって改めて思いますね。





■読めば元気がモリモリ湧いてくる


個人的には、72歳で佐渡島へ流刑になるも74歳で佐渡島を舞台にした歌劇を書いて言わば元を取った世阿弥や、自分の葬儀や三回忌のシナリオを書き、実際に執り行われた四世(四代目)鶴屋南北のエモなエピソードには電流が走りました。ヤバい、カッコよすぎ。


いま、なんとなく元気がない方、ぜひ読んでみてください。両親に老いを感じている方、そして自分自身に老いを感じている方効きますよ! 超高齢化社会が目前で、老いることは誰しも怖い。けれども「くそー! トシ食ったから見えてくる楽しい世界がきっとあるはず!」と足の裏からパワーがクソ駆け上ってくる、そんな勇気がもらえる本なのです。



くそじじいとくそばばあの日本史
著/大塚 ひかり
946円(本体860円)
ポプラ新書

貪欲に、したたかに、たくましく生きた老人たち。
古典から読み解く、パワフルな生き方の秘訣とは――?
『女系図でみる驚きの日本史』著者が綴る、知られざる老人たちの歴史。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8201196.html



(吉村智樹)