新型コロナ第三波が襲い来る前に読んでおきたい「全店舗閉店して会社を清算することにしました コロナで全店舗閉店、事業清算、再出発を選んだ社長の話」

2020/11/18 12:10 吉村智樹 吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第27冊目は、新型コロナウイルス第三波が襲来しようとする渦中に発売された超話題のビジネス書「全店舗閉店して会社を清算することにしました コロナで全店舗閉店、事業清算、再出発を選んだ社長の話」です。





■新型コロナウイルス「第三波」がやってくる!


この記事を書いている11月17日(火)、新型コロナウイルスの新規感染者が急増する北海道では再び「不要不急の外出自粛」を要請することを発表しました。また僕が住む京都では新規感染者数が最高レベル「特別警戒基準」に達しました。同じ関西では兵庫県が初の100人を超え、パンデミックの様相を呈しています


東京、大阪、愛知など大都市の惨状は言わずもがな。はあ(ため息)。収束どころか、この状況に対し専門家からは新型コロナウイルス「第三波」到来を指摘する声があがっています。


街へ出れば「あの店も、この店も……」。新型コロナウイルスさえなければさらに繁盛していたであろう人気店や老舗が閉店している光景があちこちで見受けられます。以前に不動産屋さんに訊いたのですが「10月で賃貸借契約が切れる店舗が多い。なので10月末で閉店する店が後を絶たないんだ」とのこと。逆に言えば、苦しみながら皆10月末まで耐えたのだと。


本来なら行楽や宴会シーズンに当たるこの時期に店を閉める飲食店の無念を想うと、一介の通行人でしかない僕でさえいたたまれず、シャッターが閉まった物件から足早に遠ざかってしまいます。


日本に住む人々が初めて経験する、ウイルスの恐怖と向き合ったまま迎える歳末、新年。「これから景気はどうなっていくのか」「雇用はどうなるのか」「医療は崩壊するのか」。そして今日にも自分は感染するのではないか。重症化してしまうのではないか。自分のせいでクラスターを発生させてしまうのではないかと、不安な気持ちでいっぱいになります。





■予想外! 絶好調の会社を急襲した新型コロナウイルス


そんな「第三波」襲来に人々がおびえるさなか、まさにジャストな内容の本が発売されました。それが「全店舗閉店して会社を清算することにしました コロナで全店舗閉店、事業清算、再出発を選んだ社長の話」(実業之日本社)。


著者は福井寿和(ふくい・としかず)さん。新型コロナウイルス禍以前に青森と仙台の5カ所にカフェとバルを経営していた実業家です。青森にカフェムーブメントを巻き起こした立役者であり、オリジナルのパンケーキミックスは大人気。従来なら成功者として著書を上梓してもいい存在なのです。


ところが……事業が上り調子な今年になって新型コロナウイルスが上陸。福井さんは「会社の継続か撤退か」を悩み、遂に「清算」という答を出します。そんな急転直下な日々をつづったnoteが140万を超えるページビューを弾きだし、待望の書籍化と相成ったのです。


ビジネス書といえば「秒で稼ぐ」「スマホひとつで成功者になれる」というような、上昇志向をインスタントに満足させる内容の書物が多くを占めます。反対に店舗閉店、事業清算について書かれたものは少ないでしょう。けれども働く人のほとんどが明日をも知れぬ気持ちにさいなまれつつ漂流するいま、この本ほどポジティブに受け取れるものはないのでは。いやもう、泣けて泣けて。「こんなに泣けるビジネス書があるのか」と、驚かされました。





■危機的状況から生まれたパンケーキカフェ


新型コロナウイルス禍以前から福井さんの生き方は波乱に満ちていました。出身地である青森の大学を卒業後、上京してIT企業にシステムエンジニアとして就職。プロジェクトマネジメントの会社に転職したのち、地元を盛りあげるべくUターン。なんと27歳で青森市議会議員選挙に立候補します。とはいえ、残念ながら落選。


そうして福井さんは4年後に再び選挙活動を始めるのならば会社に縛られない自営しかない、起業しかないとAOMORI(青森)を反対から読んだ会社「イロモア」を起ち上げます。


初めに手掛けた事業は時代を先取りしたコワーキングスペース。けれどもまだ「コワーキングスペースってなに?」という知名度で客はまるで訪れず、さらに共同経営者が降りたことで資金繰りの危機に。そこで中華料理店の厨房でバイトをしていた経験を活かし、小さなキッチンで調理するカフェへと業態を変化させます。


しかしながらこれまたいっこうに客は来ず。暇に任せて試作したのが極厚パンケーキ。これが珍しいとテレビが取材に訪れ、放送後はいきなり行列ができる話題の店に。客が殺到したのはいいもののパンケーキひとつ焼くのに1時間も待たせるほどの不手際が続き、これではだめだとカフェ経営を根幹から観なおし、本格的に向きあうようになりました。





■青森に新規感染者が。街の雰囲気が一変


そこから店舗数を増やすなど会社は急成長。さりとて家庭を顧みないまま、妻に育児も店のシフトも経理も任せきりになるなど、人間性は静かに崩壊しつつありました。やがて妻も自分も身体に異変が起きるまでにストレスを抱え込みます。


さらに、急成長を遂げていたのに、新型コロナウイルスによって思いもよらぬ事業清算への展開。しかし僕は読んでいて「コロナはあくまでトリガーだったのかな」と感じました。福井さんがビジネスの神様に魂を売り渡す寸前だったように思ったのです。


感染者がおらず当初は他人事だった青森。しかし3月23日に感染者が現れてから県内の雰囲気は急変。疑心暗鬼にかられる空気感が蔓延し、緊急事態宣言がまだ発令されていないにもかかわらず「土曜日なのに客がぜんぜん来ない」という考えられない事態に。日によっては昨年比25%という悲しい売り上げを記録。そうして福井さんは苦悩のなか、従業員の未来を考え「全店閉店」「全員解雇」を決意します





■苦しみながら送信した「全員解雇」を伝えるメール


故郷の青森を盛りあげたい一心で帰省し、必死で起ち上げた思い入れが深い店。ときに家庭や自分の体力を犠牲にしてまで人気店に育てた日々。そんな忘れられるはずがない青春の想い出を自ら蹴散らすように「全員解雇」のメールを送信するくだりは、涙が止まりませんでした


この本は「ワクチンなんて数年はできないんだからアフターコロナなんて、まだまだ先。できるだけ早期に事業清算しましょう」というクールでドライな内容ではありません。耐える、踏ん張るだけが正しい道とは限らない。倒産という選択をしても、後ろ向きになることはないのだと、背中をさするように押してくれる温かなメッセージが込められているのです。これは新型コロナウイルス禍のみならず、夢破れて去ろうとする人たちにとっても優しいはなむけになるのではないでしょうか。


この本を読み終えたあと奇しくも今月オープンした洋菓子カフェを取材しました。「なぜまたよりによってこんな国難の時期に店を開いたのか」と問うたところ、若きオーナーパティシェ曰く「経営には苦しさがつきもの。だから敢えてもっとも苦しい時期にオープンしました」とのこと。


勇気を振り絞って撤退した人がいる。
勇気を出して出撃する人もいる。
それぞれ「ウイズコロナ」に真剣に対峙して出した答です。
そして、ともにとても尊い。


皆、ウイルスが悔しがるほど、しぶとく生きぬいてやりましょう。
いつか人々が一斉にマスクを外して、大空に投げられるその日まで。



全店舗閉店して会社を清算することにしました。
コロナで全店舗閉店、事業清算、再出発を選んだ社長の話
福井寿和 著
1500円+税
実業之日本社

―決断に迷う全ての人へー
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2児の父として、経営者として、困難な選択を迫られた著者は、経営していた飲食店5店舗の閉店を決め、会社の清算もした。

その決断の背景と、これからのこと。
https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-33947-4



(吉村智樹)