パンが光る! 本物のパンで照明器具「パンプシェード」をつくる女性作家

2018/6/4 11:36 吉村智樹 吉村智樹

▲パンタスティック! 本物のパンなんです。でも光ります。パンだけどランプなんです。食卓に置けば料理がいっそう美味しくいただけそう


こんにちは。
関西在住のライター、吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第24回目となります。





■パンが光る! 神戸生まれの「パンプシェード」


皆さんは、街で見かけたことがありませんか?
あのパンを。
ベーカリーショップやレストラン、カフェ、雑貨店などで「パンが光っている」あの姿を。



▲置くだけではなく壁掛けタイプのパンも



▲まるでパンに命が宿ったかのような


謎の光るオブジェの正体は、パン屋さんの激戦区と呼ばれる神戸で生まれた手づくりランプ。
その名も、パンのランプシェードだから「pampshade(パンプシェード)





パンでありながらインテリア。
パンでありながら間接照明。
本来は光るはずがないものが光っている。
その非日常な風景は、とってもパンタジック。


一瞬「パンのかたちをした模型なのか?」と思いがち。
違います。
模造品ではなく、素材は、ちゃんと食べるために焼かれた本物のパンなのです。
パンプシェードを生みだすアトリエの名前も、それゆえに「モリタ製パン所」。


■パンを光らせ続けて10年を迎える女性作家


関西はもちろん、いまや全国で頻繁に目にするようになったこの光るパン「パンプシェード」。
手がけているのはハンドメイドアーティストの森田優希子さん(32歳)。



▲10年に渡ってパンプシェードをつくりつづける森田優希子さん


京都市立芸術大学版画学科のご出身。
「パンプシェード」をつくりはじめ、およそ10年になります。
10年間ひたすらパンを光らせ続けているって、すごくないですか?


そして活動の節目となる今年、この春に神戸北野に新しくできたカルチャー・シェアスペース「KITANOMAD(キタノマッド http://www.kitanomad.org/ )」にアトリエを移転されたと聞き、さっそく新天地を訪れました。


■神戸の人気店で焼かれたパンをひとつずつ手づくりで照明器具に


「一ヵ月におよそ300台」ものパンプシェードを生みだすNEWアトリエにおじゃますると「おお!」。


作業場に置かれていたのは、神戸を代表するパンの銘店「ビゴの店」のプラスチックコンテナ。



▲パンプシェードの素材はなんと日本にフランスパンの技法を伝えたフィリップ・ビゴさんのブランド「ビゴの店」のパンが使われていた


素材となるパンは、ひし形の「クッペ」、丸い「ブール」と「プチブール」、きのこの形をした「シャンピニオン」、長さ約50cmほどのフランスパン「バタール」、さら細長い「バケット」、そして「クロワッサン」の7種類。
素材にこんな高級なパンを使っていたとは驚きです。














森田
「ビゴの店のパン、大好きなんです。それで神戸三宮店の方に『照明器具の素材にするから注文させてほしい』と依頼をしました。はじめは怪訝な顔をされましたけれど、パンが好きだという想いをこめて真剣に説明をしたらわかってくださって」


確かに、永い歴史があるパン屋さんであっても「ランプの素材に」と注文されたのは初めてでしょうね。
ということはこちらで扱っているパンは、照明器具用に焼かれた特製ですか?


森田
「いいえ。普通においしくいただける食用のパンです。店頭に並ぶ商品と同じもの。『そもそもあるパンが光っている』というコンセプトを大事にしたいので、ランプ用に特別に成分を変えて焼いてもらうのは、なんか違うような気がするんです」


あくまで素材は「そもそもあるパン」「売られているものと同じ、おいしいパン」。
森田さんはパンそのものの製造過程には手を加えません。
湿気、温度、乾燥、小麦粉の違い、バターの含有量などなど、ひとつひとつ条件が異なるパンを光らせるべく、3人のスタッフとともに丁寧に手仕事をしてゆきます。



▲仕入れたパンを天日で乾燥させる



▲電灯を挿すために中身をくりぬく



▲パンの外皮に樹脂を塗る。「パンに合う樹脂」にたどり着くまで、あらゆる樹脂を試した



▲固まった樹脂の「バリ」を取り除く。この地味な作業が安全性をさらに高める


森田
「同じ種類のパンでも水分量や焼け方などが微妙に違うでしょう。ひとつずつ目や鼻や指で確認して『このパンをおいしそうに光らせるにはどうしたらいいんだろう』って考えながらつくるので、ぜんぶ手作業。塗る樹脂もマット加工の方法もそれぞれ違うし、大量生産ができないんですよ」


ランプ制作で特に難しいのがクロワッサン。
層がもろいため、中身をくりぬくときも、樹脂コーティングする際も、いともたやすく崩れてしまいます。
パンプシェード制作は、まるでクロワッサンのように繊細な作業の層の積み重ね。



▲パンプシェードでもっとも制作が難しいクロワッサン


■なんと「パンプシェード用のオリジナル電灯」を開発!


パンを慈しむように、それぞれの魅力を光らせる。
比喩ではなく、文字通り本当に光らせる森田さん。
そのために森田さんが遂行したのが、なんと「LED照明」部分の開発。


森田
「パンをおいしそうに光らせるため、照明メーカーさんとともに試行錯誤しながらパンプシェードだけのオリジナル部品をつくりだしました。光の量や発色、省電力、センサーが反応して置くだけで光るとか。この10年でかなりグレードアップできたと思います」


なんとパンプシェードは、電灯の基礎まで無二の発明品だったのです。



▲森田さんは電流や電圧、家電製造の勉強をし、照明器具メーカーともに「パンプシェード用のライト」を開発した



▲森田さんはパンのなかに電灯をいこんで安定させる方法をあみだした、おそらく本邦初の人


森田さんはこの作業を行うために、照明器具を安全に製造販売するうえで必要な資格をすべて取得しました。
僕などはつい「規格の照明部品に特製したパンを載せたほうがずっと近道なんじゃないの?」と思ってしまいますが、そこをあえて正反対の方向から挑むとは、パンへの強いリスペクトとロマンを感じます。


森田
「パンがおいしい、パンが好き、パンの魅力を伝えたいっていう想いが制作の原点なので、がんばって照明の方を寄せました。あくまでパンが主役だから制作中に出るパンくずひとつ無駄にはしません。くりぬいたクラム(パンの中身)は冷凍庫に保存して、すべて食べます。自分だけで食べられないときはラスクにしてお配りしたり、レストランに譲ったりもしています。捨てることはありえないです。それに『パンを食べて太った』と思われるとお店に迷惑がかかるのでダイエットも欠かせません」


森田さんは先日なんと、くりぬいたパンの中身を駆使したフルコースディナーをふるまう食事会も開催。



▲くりぬいたパンの中身は決して捨てず「すべて食べる」



▲くりぬいたパンの中身を使った料理で食事会を開くことも。テーブルランプはもちろんパンプシェード


こうして舌で味わう部分でもパンの魅力を伝えているのです。
この食事会のライティングは、もちろん、ずらり並んだパンプシェード。
シュールさも光っています。


■パンとライトを合体させたのは「パンが輝いていたから」


それにしてもなぜ、森田さんはこれほどの手間を惜しまずパンプシェードをつくろうと考えたのでしょう。


森田
「大学時代にパン屋さんでアルバイトをしたのがきっかけです。成型や窯で焼く仕事をして、パンの魅力にとりつかれたんです。イースト菌って生き物だから、原料は同じでも発酵の具合や焼くタイミングで見た目も味も変わる。『これは思っていたより深い世界だぞ』と。そうして次第にパンが愛おしくなってきました


バイトを通じてパンがいだく深奥な魅力を知った森田さん。
しかし、そこから「照明器具」へととんでもない方向へと飛躍したのは、どうして?


森田
「愛おしいパンが売れ残って廃棄されるのが耐えられなくて、余った分はもらって帰るようになりました。でもさすがに全部を一気には食べられないので、フランスパンの中身だけを食べてクラスト(外皮)は花瓶に挿していたんです。そんなある日、パンが輝いたんです」


パンが、輝いた?


森田
「はい。窓から入ってきた光に照らされ、皮だけになったパンが輝いていたんです。その光景がとてもきれいで。そのとき『もしかしてパンってランプになるんじゃないか?』とひらめきました」


「パンってランプになるのでは?」というパンチが効いたアイデアが浮かび、ついに挑戦の日々が始まったのだそう。
これまでまるで畑違いだった電圧や電流の計算などを勉強し、「自分でも驚くほど夢中になった」と云います。


■「パンって『かわいい』と思うんです」


では、そもそも、そこまでパンに惹かれる理由は、なんなのでしょか。


森田
「パンって、おいしいし、かわいくないですか?


か、かわいい?
パンが?
パンダじゃなくて?


森田
「私、パンって『かわいい』と思うんです。おいしいのはもちろん、香りもいいし、見ているだけで幸せな気持ちになる。インテリアとして飾っておきたくなる。パン屋さんに入った瞬間の、あのハッピーになる感じ、テンションが上がる感じ、パンプシェードをつくりはじめたのも、パンのかわいさをお部屋で楽しんでほしいから。パンがランプになっていれば、大好きなパンをいつでもそばに置けますから」

なるほど確かに、食卓のかごにおいしそうなバケットが挿してあったら、それだけでこころがほどけます。
それはパンの見た目が「かわいい」からこそもたらされる多幸感であり、まばゆく光って見えるでしょう。


■パンプシェードづくりは、まだまだこれから


最後に、ちょっと意地悪な質問を。
およそ10年、パンプシェードをつくり続けて、飽きませんか?


森田
「よく『飽きないの?』って言われます。自分でもつくり始めた頃は『いつか飽きてしまうんじゃないか』という不安もありました。でもぜんぜん飽きない。なぜならばもともと存在しないものだから。だから完成形が誰にもわからない。『このパンをもっともおいしそうに光らせる方法は、本当にこれなのか?』。いつも自問自答しながら試し続けています。飽きるどころか、むしろこれからなんじゃないかとすら思うのです」


「10年では、まだまだたどり着かない」というパンプシェードのゴール。
森田さんの創作意欲はパンのように、まだまだ熱く膨らむばかりです。



モリタ製パン所(取り扱い店リストあり)
http://pampshade.com/
*「自分のお店で焼いたパンでパンプシェードをつくってほしい」といったオーダーメイドも受け付けているとのこと



▲照明だけではなく、ナンに時計を組み込んだ商品も。その名も「今ナン時?」


(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy