囚人が獄中で彫るアイヌ民芸…「ファンシー絵みやげ」で振り返るニポポ人形(2/2)
■ 網走刑務所とニポポ人形
ニポポとは小枝を意味する樺太アイヌの言葉です。かつては木を少し加工したようなものをニポポと呼んでお守りとしていたようです。前述のセワポロロを元に考案された木彫りのこけしに、ニポポの名前をつけてニポポ人形は生まれました。
第二次世界大戦後にサハリンから網走へ引き上げた樺太アイヌにより伝わった民族の儀式がアレンジされ「オロチョンの火祭り」として網走市の行事となりました。その儀式で使われたのがセワポロロなのです。
1954年、朝鮮戦争の直後で、網走刑務所において受刑者の行う仕事に困っていました。そこでモヨロ貝塚を発見し網走へ移住した考古学者・米村喜男衛が土産品として販売できる木彫りのこけしを作ることを提案し、網走市や網走の観光協会とともにご当地の民芸品としてPRしていくことになりました。
樺太研究家の高山長兵衛が造形を決め、彫刻家の谷口百馬が彫った原型をもとにして、網走刑務所の受刑者がニポポ人形を量産していったのです。今では網走刑務所で、年間およそ4000体のニポポ人形が作られるまでになりました。
↑網走刑務所が改築する前の建物を移築・保存している博物館網走監獄。天都山にある。
こうしてニポポ人形は町のシンボルとなって、色々なところにモチーフとして使われるようになったのですね。カントリーサインにもなっており、町を挙げてアピールしていることが分かります。
伝統ではなく、新しく作られたものでありつつも民芸品として定着したというところや、片や農閑期の副業、片や刑務所の受刑者の仕事と「新しく仕事を生み出す」という理念で産業として生まれたこと、この2つが「木彫りの熊」も「ニポポ人形」に共通するというのが興味深いですね。
どちらもすでに誕生してから数十年経っていますので、これはもはや伝統工芸品と呼んでも間違いではないように思います。
では、ここから少し周辺のカルチャーやファンシー絵みやげを紹介したいと思います。
■ ビデオゲームの中のニポポ人形
1980年代にニポポ人形が重要な手がかりとして登場するビデオゲームが発売されました。『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』です。ドラゴンクエストシリーズで有名な堀井雄二が『ポートピア連続殺人事件』に続いて手掛けた推理アドベンチャーゲームでファミコンに移植されてヒットしました。主な舞台は北海道で、ゲームの中には網走刑務所をはじめ北海道の観光名所が多数登場します(土産店も!)。
↑パッケージにもニポポ人形が描かれている。このゲームは移動距離を考えると恐ろしくなる。
■ 網走刑務所のおみやげ、ファンシー絵みやげ
では、ニポポ人形以外の網走刑務所の雑貨みやげを見てみましょう。
↑やはり刑務所で使われるモノのモチーフが多い。入監証の木札をミニチュアにしたもの。
↑手錠は一番多いモチーフかもしれません。ミニチュア手錠のキーホルダー。
ここからはファンシー絵みやげを紹介していきます。
↑ステレオタイプなボーダーの囚人服を着て、足枷つけて夜中に脱走している囚人のキーホルダー。網走刑務所の正門が背景に描かれている。こんなマンガみたいな囚人がホントに網走刑務所にいるのか!?
↑「どうせ俺らの行く先はその名も網走番外地~」と高倉健の放送禁止歌「網走番外地」を歌っている。JASRAC通してなさそうなキーホルダー。ダイナマイト持って刑務所前にいる反社会的クマさん。
↑キツネのカップルが立って、ファニートーキング。面会での楽しい会話!?そして鍵の先にHAPPY LOVE。これが刑務所と何の関係があるのか謎すぎる。
では最後にこちらをご覧ください。
網走刑務所の前でモジモジ顔を背けたり、後ろ手に隠した花を渡そうとしたり…
一体これのどこが網走刑務所なのか……
いや背景に網走刑務所が描かれてはいるけど、
刑務所の前で何をやっているのか!?
刑務所の前は恋人たちの聖地ではない……
はず……
では、また次回。
(文と写真:山下メロ“院長”)
■ 保護のお願い
私は全国の観光地で保護活動を行っていますが、現地から消滅したファンシー絵みやげについては、皆様の家に残されたものが頼りです。もしご実家などの学習机の引き出しの中に眠っているものなどが見つかりましたら、是非ともご一報ください。ハッシュタグ #ファンシー絵みやげ での報告も待ってます。
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