ここは魔界?京都の最恐スポット「カオスの間」へ行ってきた!

2016/10/17 11:07 吉村智樹 吉村智樹





さぁ、これから皆さんを「京都最恐」と怖れられている魔界スポットへとご案内いたしましょう。



こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。
ここでは毎回、僕が住む京都から、いっぷう変わった情報をお伝えしております。


さて京都と言えば、最近は怪談専門雑誌『幽』の編集顧問である東雅夫さん監修の「京都魔界ガイド」(宝島社)がベストセラーとなりましたね。


この「京都魔界ガイド」をはじめ、いま書店では「京都の魔界本」というジャンルがトレンドとなっています。


京都の怖い場所を記したガイドブックが売れ筋として書店の棚にズラリと列をなし、どの本にも京都のホラーなスポットがゾクゾクと紹介されています。
「京都って、どんだけ怖いの!?」と驚くほど。


そういえば、かつてこの連載でも京都の魔界的スポット「どくろでいっぱいなアンティーク着物の店 戻橋」を紹介したのですが、おおいに反響がありました。


掲載後にお店の方にうかがったところ、「記事を読んで知った」「おどろおどろしい体験がしたい」という女性たちが遠方からも多数訪れ、他のマスコミからの取材依頼も殺到したとのこと。


どうやら今年の秋は「京都の魔界めぐり」が本格的にブームとなりそうな気配なんです。


ならば!


「どくろでいっぱいなアンティーク着物の店」をさらにうわまわり「京都最恐!」とウワサされ恐れられる一軒の魔界ポイントをご紹介しましょう。


その場所は京都地下鉄東西線「東山」駅から徒歩1分という交通至便な場所にあります。


僕がここを訪れたのは、とっぷり陽が暮れてからでした。
駅を降りて路地へ入ると、そこは静かに時を刻む街。
街燈の数も少なく、暗闇があり、たしかに魔界に踏み込んだ感があります。


路地を抜けると、お寿司屋さんの隣に、なにやらアヤシき看板が。
青く塗られた半裸像や腕だけのマネキンがディスプレイされ、早くもオカルトな気配。



▲「いらっしゃいませ」。暗い通り道沿いの、お寿司屋さんの看板の隣に、早くもただ事ではないオブジェが出現


一瞬ひるみますが、勇気を出して階段を上がると……うわ。





踊り場にあったのは待ち針がびっしり刺さったハイヒール。


さらに足を踏み込んでみると……。


うぅ、こ、これは…。























首だけの西洋人形、いわくありげな日本人形、おそらく医療用と思わしき人体解剖模型、人骨や目玉など部位のイミテーション、アバンギャルドな加工がほどこされたマネキン人形、壊れた時計などが、手探りするほど薄暗い部屋に散ちばめられています。



▲室内の全景



▲床にも人形が散乱している。こわすぎ!


ブ、ブキミすぎます。
暗黒世界の中に耽美と背徳と残酷と羞恥と懐古と狂乱と醜態と猟奇が渦巻くこの空間、ひとことで言うなら、ズバリ「魔界」。


このミステリーな場所の名は「カオスの間」。
入場料などは取りません。
誰でも断りなく入れる場所です。


カオスとは混沌のこと。
まさに混沌の限りを尽くした空間ですね。


カオスの間のご主人は砂本松夫さん(67歳)。



▲カオスの間の「座長」だという砂本松夫さんは珍しい電球コレクターでもある


京都生まれ京都育ち、生粋の京男です。


砂本さん、あの……根本的な質問なのですが、いったいここは、なんなのですか?


砂本
「ここ? この部屋そのものが、僕の作品なんです


さ、作品?
この部屋ひとつが丸ごと作品なのですか!
ということは僕はいま、砂本さんがつくった作品の中にいるのですね。


砂本
「そうです。部屋ごと作品なんです。言わばギャラリー&ショップなんやけど、街によくある白い壁だけのギャラリーではない。このスペース全体が僕の作品なんです」


ギャラリーそのものが、ひとつの作品であるとは驚きました。
そして他の作家には一週間3万円という破格に安い金額で展示場所として提供されています。


しかしギャラリーにしては、入りにくすぎませんか?
せっかくの作品なのに、怖がって入らないお客さんもいらっしゃるのでは?


砂本
「そりゃもうぜんぜん入ってきませんよ(笑)。観光客も玄関まで来て、ちょっと覗いて『ここはあかん。帰ろ帰ろ!!』いうて引き返していきます。僕はそれでいいと思ってるんです。無理に来てもらおうと思わない。作品には毒がないとね。毒って、すなわち個性やから。個性はすんなり認められません。すぐにわかってもらおうなんて思ってない。僕は5年後にわかってもらえたらそれでいいと思ってるんです。5年後に京都のあちこちがこんなふうになっていたら、おもろいでしょ? その推進のためにやっているという部分もあります」


砂本さんが展開するこのシュールな世界は、なんと5年後の京都を見据えて展開されていたのです。
5年後の京都の光景がいったいどうなっているのか、震えながら待つことにしましょう。


それにしても独特きわまりない作風ですが、作品のコンセプトってあるんですか?


砂本
「コンセプト? ノーコンセプトですよ。よく『コンセプトは?』って訊かれるんですけど、コンセプトのあるモノで、おもろかった試し、ありましたか? ないでしょう。『なんやこれ?』っていうのが大事で、『なんだかわからない』と思ってもらえたら、それでいいんです。コンセプトなんてあったら、いっこもおもろいことあらへん。ただ、とはいえ、なんでもありではないですよ。“ちょっとエロ、ちょっとグロ”。表現が行き過ぎないようにしています。あんまりえげつないのんは好きやないんです。秘宝館とか、ああいうのんは僕はちょっと苦手ですね」



▲「えげつないものは好きではない」という砂本さん。なるほど、作品ひとつひとつをよく見ると、かわいい、かもしれない


えげつないのは好きではない。
えげつなさの定義や感覚は人それぞれですが、なるほど、砂本さんの作品には確かにギリギリのところで抑揚が効いている気がします。


砂本さんの作品のなかには他の素材を埋め込むなど装飾をほどこしたオブジェもありますが、どこでアートの勉強をされていたのですか?


砂本
「アートの勉強? そんなもんしてません。まったくの独学ですわ。もともとアパレル会社のサラリーマンでしたし。ただサラリーマン時代から、アンティークは好きで集めていましたね。アンティークといっても作者もわからない謎の品物ばかり。そういう“ヘン”なものが好きだったんです。なぜ好きか? そういうジャンク品には“しがらみ”がないんですよ。ガラクタには自由があるんですね」



▲得体のしれないアンティークの数々は、値段は書かれていないがすべて売り物で、「目玉」が飛び出るほどには高くはない



▲カオスの間にあるこのような「ヘン」なものは、ほとんどが購入できる


砂本さんはアンティークの蒐集をいまも続け、ネットショップやネットオークションでの収益を、この「カオスの間」の運営に充てています。
そしてこのカオスの間でもジャンクな品々を「画材」として販売。
「無理に買ってほしいと思わない」「買ってくれとは言わない」というポリシーから値札は一切ついていませんが、どれもそう高くはありません。
僕が購入した、おそらく戦後間もなくのものと思わしきベティ・ブープのへたくそなイラストが描かれた木製のカードは、ひとつ300円でした。



▲歯車など機械のパーツや電球も「画材」として販売



▲販売用ディスプレイ棚としてマネキンを使うのだが、これ自体がアート作品と化している


ガラクタにはしがらみがない。自由がある。
はじめは「怖い」という印象だけで背筋を凍らせていましたが、ここにいると次第に恐怖の中にあるかわいらしさが見えてきたり、心がしがらみから解放されてくるのがわかります。


砂本
「怖い場所だというふうに思われて、ここに入らない人も多い。でも反対に『京都でやっと自分の居場所を見つけた』といって喜んでくれる人もいるんです。そうやって、日ごろ抑圧されている人がここで楽しんでくれたら嬉しいですね」


取材日も、わざわざ大阪から来たというゴスロリファッションの女子がくつろいでいるのが印象的でした。


見学のみでももちろんOKというこの「カオスの間」は、見渡す限りまがうことなきおどろおどろしい「魔界」。
ですが、秋の京都を旅するなら、ふと魔が差すように、定番コースからはずれて、ここをふらりと訪ねてみてはいかがでしょう。
ブキミ心地いいという不思議な体験ができますよ。



▲砂本さん曰く「ほとんど売り物やけど、この娘だけは売りませんねん。うちの看板娘やから」



ギャラリーshop「カオスの間」
住所●京都市三条通り白川上ル石泉院町394‐2F
アクセス●京都地下鉄東西線「東山」駅徒歩1分
電話●075-762-5255
営業時間●要確認
定休日●年中無休(要確認)
Facebook● https://www.facebook.com/kaosunoma/
Twitter● https://twitter.com/kaosunoma



(吉村智樹)