【難解CMワード】粗挽きネルドリップ、サルファ・レゾルシン処方…いくつ覚えてる?

2016/9/28 14:32 DJGB DJGB

椎名桜子、元気かな。

こんばんは、バブル時代研究家のDJGBです。

キリンビバレッジが、商品名を伏せたまま新しい缶コーヒーを100万人に無料配布する「シークレットサンプリング」を展開中です。



今日も今日とて、バブル時代のことにばかり思いを馳せる私。「キリンの缶コーヒー」と聞いて脳裏に浮かんだのは、新製品への期待でもなく、また現在販売中の「FIRE」でもなく、“粗挽きネルドリップ”という謎の呪文でした。


1987年、キリン(当時は麒麟麦酒)は新しい缶コーヒー「JIVE(ジャイブ)」を発売します。その特徴はズバリ、粗挽きネルドリップ方式です。

●粗挽きネルドリップ(キリン「ジャイブ」)



ええ、この高品格と小林稔侍のCMよく覚えています。そのあと、イッセー尾形や古舘伊知郎らがCMに起用されたことも覚えています。ですが残念ながら、“粗挽きネルドリップ方式”について、これ以上の情報は持ちあわせておりません。

TwitterやFacebookといったSNSが生まれるはるか前から、広告には世の人々を“バズらせる”ためのキーワードが埋め込まれてきました。バブル期に特に目立ったのは、独自の製法や成分を訴求する飲料、薬品類のTVCMです。今日は、何を意味しているのか結局わからないまま過ぎ去っていった、かつての“バズワード”たちをふりかえります。


■難解なキーワードがあふれたバブル期のCMたち

●遠赤焙煎(ポッカ 遠赤焙煎コーヒー「ジェント」)


キリンが“粗挽きネルドリップ方式”なら、ポッカは “遠赤焙煎”です。おそらく遠赤外線で焙煎しているのでは、という察しはつくのですが、その利点がいったい何なのかは不明です。じんわりと温かく、なんとなく肩こりや腰痛にもよさそう(※個人の感想です)。


●オクタコサノール配合(サントリー 「熱血飲料」)


若き日の唐沢寿明演じるさえない新聞記者、奥田古佐典(おくたこさのり)は、ピンチになるとオクタコサノール配合の「熱血飲料」を飲み、熱血キッドに変身。かずみちゃんを助けに参上します。CMは大いに話題となりましたが「熱血飲料」は間もなく販売終了し、オクタコサノール入りの飲料は同じくサントリーの「DAKARA」に引き継がれました。
いっぽうの唐沢寿明は、その後ダイワハウスのCMでダイワマンに変身します。


●サルファ・レゾルシン処方(P&G 「クレアラシル」)


何がどうすごいのかよくわからない言葉ナンバーワンといえばこれ。
調べてみると“サルファ”は硫黄、“レゾルシン”は殺菌成分で、その2つが入ってますよ、という意味だそう。CM中の言葉のイントネーションから「サルファ・レゾルシン処方」という、何か特別な薬の作り方があるのだと勘違いしていました。

ついでに当時、外国人というだけで「シカ~モゥ」と言わされた方も多かったことでしょう。


●塩化リゾチーム配合(大正製薬「パブロン」)


医薬品のCMには、素人には手が出せない感じの何かが含まれています。「パブロン」の塩化リゾチームは、のちに塩酸ブロムヘキシンへと(言葉の響き的に)パワーアップするのですが、ショッカーがゲルショッカーになったようなものでしょうか。


●セラチオペブチダーゼ配合(武田薬品「ベンザエースD錠」)


対するタケダの「ベンザエース」には、セラチオペブチダーゼという、心なしか卑猥な響きを持つ何かが含まれていました。「塩化リゾチームとどちらがすごいんだろう…」と思っていたのもつかの間、小泉今日子による「ベンザエースを、買ってください。」という一言で(私の中での)勝負は決します。


●トラネキサム酸(ライオン「デンターT」)




●グリチルリチン酸ジカリウム(ライオン「デンターT」)


「デンターT」のTは、トラネキサム酸のT、ということは知ってます。「ナイトライダー」のナイト2000の原型となった自動車「トランザム」に響きが似ていてかっこいいな、と思った記憶しかありません。

いっぽうのグリチルリチン酸ジカリウムは「中村雅俊がおすすめするのだから、きっと歯と歯グキにいいのだろう」と思っていたら、のちにシャンプーや目薬、洗顔料などにも配合されていることを知り、衝撃を受けました。

どうやらどちらも、抗炎症作用がある成分のようですね。


■源流となった花王「メリット」の“ジンクピリチオン効果”

ふりかえれば80~90年代のTVCMには、数多くの小難しい言葉があふれ、消費者を魅了していました。その源流をたどると、この商品にたどり着きます。

●ジンクピリチオン(花王「メリット」)


(ナレーション)ジンクピリチオンが地肌から髪全体にゆきわたり、フケのない軽やかな髪に。

1991年、作家の清水義範はコラムで、こうした現象を “ジンクピリチオン効果”と名付けました。



(以下『インパクトの瞬間』より引用)
「ジンクピリチオンが何であるのか、つまり、動物なのか、鉱物なのか、植物なのか。甘いのか酸っぱいのか、硬いのか柔らかいのか、 押し出しが強いのか人当たりが良いのか。そういうことを知ったとしてもあなたに何の利益があるだろう。

そのようなことを知っていることを、無駄な知識と言うのである。

ジンクピリチオン配合。

虚心に、この言葉だけに耳を傾けなければならない。そしてそうすれば、あなたは必ずこう思うはずなのである。

なんだか、すごそうだ。

その心の声こそが、この言葉を聞いた時の正しい反応なのである」
(引用ここまで)



『インパクトの瞬間』では、同じような効果を持つ言葉として先の「塩化リゾチウム配合」、「セラチオペプチダーゼ配合」 に加え、「デュラムセモリナ100%」、などが挙げられています。

先ごろ「未来技術遺産」に選ばれた「酵素パワーのトップ」や、「モンドセレクション受賞」あたりも似た効果を持っていますし、最近で言えば「プラズマクラスター」「マイナスイオン」「グルコサミン」「コンドロイチン」「アントシアニン」「ポリフェノール」あたりを配合していると「なんだか、すごそうだ」と思わせる効果抜群です。

かつてのTVCMから場所を移し、現代ではSNS上で毎日のように“バズ”が生まれ、また消えてゆきます。より精度の高いターゲティング広告が可能になったからでしょうか、「子供から大人まで、聞いたことだけはある(けど中身はよく知らない)謎の言葉」が減少しているのは、少し寂しい気もします。

実は「メリット」のジンクピリチオンには後日談があります。

「メリット」はその後も、ジンクピリチオンをさらに強化?したミクロジンクピリチオンを配合し、シャンプー市場をリードし続けます。ところが90年代末、ジンクピリチオンに“環境ホルモン(内分泌かく乱物質)”の疑いがあることが報告されます。もちろん現在では人体に影響がないことが確認されていますが、この騒動が影響したかどうか、花王は2006年、「メリット」の成分を変更しています。ジンクピリチオンに代わって添加されるようになったのは、あの「デンターT」でおなじみのグリチルリチン酸ジカリウムでした。



「グリチルリチン酸ジカリウム」と声に出して言いたいだけの私には、またひとつ、無駄な知識が増えたのでした。

(バブル時代研究家 DJGB)