【ドローンキーパーソンインタビューVol1後編】みなさんが考えていないような、面白いアイディアを出せる会社でありたいです。

2016/9/13 12:00 ブーストマガジン ブーストマガジン

■前回に引き続き、DJIマーケティングディレクター柿野朋子氏に伺う
■産業用ドローンを立て続けにリリース。その戦略は?
■安全に飛行する為の教育プログラム「DJI CAMP」の意義



前回、DJIの急成長の理由を探りながら、今後の日本のドローン市場でキーマンのひとりになるであろう柿野さんの仕事やバックボーンについてお話を伺った。DJIの若さやスピード感、そして開発に注力した経営は非常に興味深い。また、柿野さんがドローン業界にどっぷりはまっていた方ではなく、異業種から「マーケティングコミュニケーション」という切り口で参入してきた方というのは、とてもおもしろい要素だ。

今回は、前回に引き続きDJI JAPANの柿野さんに、より具体的な販売戦略・ビジネス戦略についてお話を伺っていく。

【田口】単刀直入にお伺いいたしますが、今後の日本におけるDJIのビジネス戦略として、産業用とコンシューマー向けのどちらにチカラを入れていくのでしょうか?

今後はコンシューマーと産業用を両輪でやっていこうと思っています。どうしてもコンシューマー向けのイメージが強いのですが、ドローンは空間の有効利用で、それができるツールであり、それをどのように使うかはユーザー様のアイデア次第です。そのアイデアをうまく引き出せるようにしていきたいと思います。



【田口】農薬散布用ドローンや大型ドローンなど、産業用の製品のリリースが立て続けにあったので、てっきり産業用に注力していくのかと思いましたが…。

我々は産業用、コンシューマー向け両方とも大事だと考えています。やはりコンシューマーが増えないと利用シーンが増えませんし、ブランディングも強くならない。AppleのiPhoneはコンシューマーが広がった結果、業務の中でも使われるようになったと認識しています。そんなイメージがいいなぁと。とてもわかりやすいですよね。日本においては、ドローンは圧倒的に業務用の利用ニーズが多いので産業用は重要なドメインではあると考えていることに間違いはありません。



【田口】産業におけるドローンの活用で、特にここにチカラを入れたい…という分野はありますか?

まずは農業(農薬散布)についてチカラを入れていきます。それから建設関連とか。建設という分野はいろいろありますよね。インフラ点検、測量など。災害支援、復興も建設業界の仕事。林業(獣害対策も含めて)も入ってくると思います。赤外線カメラを搭載するなど、カメラを変えることによって限りなくいろいろなことができると思います。

【田口】昨年末ごろ、農薬散布用ドローンのプロトタイプ「AGRAS MG-1」を発表しましたよね。実用化に向けて進捗はいかがでしょうか?

MG-1は認可を受けるために手続きを進めています(農薬散布ドローンを業務利用するには、農林水産航空協会からの認可が必要)。今年は準備期間という感じでしょうか。仮にこの後すぐ認可が降りたとしても、本格利用する頃には農薬散布の時期が終わっていますので、今年は体制を整えていくための準備期間にしたいと考えています。本格的な運用は来年からになるかと。サポートが重要なので、来年の運用のタイミングまでにサポート体制を整えたいと思います。

【田口】今までの無人機による農薬散布はものすごく高価な産業用無人ヘリコプターをオペレーターが請け負っていましたが、ドローンによる農薬散布はどのうよなイメージでしょうか?

いろいろなカタチがあっていいと思います。DJIとしてはまだ本当に準備段階で、いろいろな可能性を確認している状況です。ただ、産業用無人ヘリコプターの領域とドローンの領域ってちゃんと棲み分けができていくのではないかと思っています。広いところは産業用無人ヘリコプターのほうがいいし、棚田のようなところや飛び地はドローンがいいのかもしれない。作物の種類によってもドローンではダメということもあると思うし、手でやったほうがいいときもあると思います。結局、使う人の効率化が伴わないとドローンを使っても意味が無い。そのあたりはドローンの導入をゴリ推しするわけではなく、シーンごとに今までのやり方がいいのか、それともドローンを導入した方がいいのか、いろいろな条件があり、選択肢が増えるだけだと私は思っています。

【田口】DJIの産業用ドローンとしてはもうひとつ「Matrice 600」という大型ドローンが発表になりましたが、この機種に対してどのようなニーズが現場ではありますか?

Matrice 600は物を運ぶこともできますし(6Kgの物を運べる)、カメラも大型のものが乗りますので、業務用の大型カメラを搭載するほか、360°VRの動画を撮影したいというニーズも多いですね。あとは、やはり点検に活用したいというニーズも多いようです。その他、いろいろニーズはあるのですが、現段階では、実際にどんなことができるのか検証してみたい…というお話がいちばん多いかもしれません。

【田口】ドローンの中枢であるフライトコントローラー(ドローンの飛行をコントロールする頭脳的な装置)も新しくなり、何よりGPSの誤差を少なくするシステム「D-RTK」も発売になるとか?

新型の「A3フライトコントローラー」によって飛行安全性はかなり高まりました。障害耐性システムにより、6枚以上のプロペラがある機体ならば飛行中にローターやプロペラが故障しても安全に着陸できます(https://www.djivideos.com/video_play/04746ec4-22e2-45c3-a471-e71a1c90431a?autoplay=1)。

dji web Player
※別窓で動画が再生されます

安心・安全・簡単というキーワードがドローンにおいては重視されている中で、「だからDJIだよね」と言っていただいているのはとてもありがたいですね。D-RTKシステムは精度の高い位置情報提供し、GPSの誤差を埋めるので業務でドローンを利用する方にとっては非常に有効活用していただけるツールだと思います。



【田口】GPSはもともと数メートルの誤差があると言われていますよね。D-RTKはどのような仕組みでGPSの誤差を縮めるのでしょうか?

D-RTKは、DJI A3シリーズフライトコントローラー用に設計された高精度なナビゲーション・測位システムです。2つのアンテナと固定された地上局、そしてGPSを使って誤差を少なくする仕組みです。地上局は三脚で立てて使います。GPSはもともと数メートル?10メートルほどの誤差がありますが、D-RTKを使うことによって数センチ以内の誤差に収めることができます。測量や点検など、正確さを求める業務にはニーズがあると思います。



【田口】安全面といえば、自分も講師をしていますが、ドローンパイロット教育に関する学校が都内を中心に増えてきています。御社でも「DJI CAMP」という教育プログラムがスタートしましたが、DJIとしてパイロット教育についてはどのように考えているのでしょうか?

他社のスクールと違うところは、DJI CAMPはDJIの飛行プラットフォームに限定しているところです。これはやる意味があると思っていまして、国土交通省が公開している 「無人航空機に係る許可承認の内容」の内訳を見ていただくとわかるのですが、ほとんどがDJIの機体です。DJIがDJI CAMPをやる意味というのは、ひとつはDJIの機体に精通している、安心・安全に飛行できる人材を増やしていくということ。もうひとつは、それによってドローンのマーケット自体を成長させていく…ということです。

【田口】DJI CAMPではどのような内容を教えているのでしょう?

DJI CAMPでは特に飛行技術を教えているわけではなく、既にDJIの機体をお持ちになっている方がほとんどなので(飛行経験時間10時間以上が受講の条件)、その方たちにドローンを扱うことがどれくらい責任あることで、安全・安心を死守しなければいけないかということを再認識していただくことが目的です。浪花節なんですけどね。(笑)

【田口】あ、がっつりと研修するプログラムではないんですね。

放送ビジネスに携わっている方や、空撮をしている方、これから何かドローン関連のビジネスを始めようとしている事業者様、ほんとうにいろいろなバックグラウンドの方がいらっしゃいます。その方たちに共通することは安全飛行だけなんです。まず、それはDJIとしてそこを再認識していただくことが重要だと思っています。DJI CAMPでは、安全飛行の知識・心得と、操縦のベースとなる技術の確認をさせていただいているだけですが、それがとても大切なのだと考えています。

【田口】自分でもドローン操縦や知識に関する講師をするので気になったのですが、DJI CAMPのテキストを拝見すると気象学に関するボリュームが大きいですね。これにはどんな意味があるのでしょうか?

気象は予測が難しいことが多いので、その情報に触れる機会を増やすことを重視しています。パイロットは事前準備のひとつとして飛行マニュアルを作らなければなりませんが、飛行マニュアルがしっかりとできていたとしても、天気の状況などの飛行条件によってマニュアルの中身を変えていかなくてはならなかったり、追加していかなくてはならなかったりすると思います。その判断、対策をするための知識が必要です。しかし、気象について意外と知らない人が多いということに気がついて、ボリュームを増やしました。

【田口】DJI CAMPの受講者はドローンを業務で活用しようという方が多そうですね。コンシューマーの方々に向けたサポートやサービスはどのように提供していく予定でしょうか?

各代理店が積極的にトレーニングをコンシューマー向けにやっているのでそちらのご紹介ですとか、最近は弊社サポートセンターがYoutubeで動画配信などもしています。あとはドローンを飛ばせる場所の確保ですね。これは非常に大きな私たちの課題だと考えています。先日、「安全飛行フライングエリアの制限」の中で「飛行可能施設」の項目を追加しました!私たちがこの情報を出した=これを公開継続していく…という宿題もありますので、いろんなリソースを使って、私なんかは会う人会う人に飛ばせるところありますか?と毎回聞くという状況です(苦笑)。飛行可能施設の情報は継続的にアップデートしていきますし、いま全社員総出で情報収集しています!ここはDJIがコンシューマーに貢献できるところだと思っています。けっこう地味ですが…(笑)でも、大切なところだと思います。もし、ドローンを飛ばせる施設の情報があればぜひ教えてください。お願いします。

【田口】都内にパイロット教育学校が集中していますが、ドローンの活用は地方地域こそ活用の幅が広いのではないかと思っています。東京の2/3くらいは人口密集地区ですし(苦笑)。DJIとして、地方地域のドローン活用促進を計画していたりしますか?

先般、東京都あきる野市と提携させていただいていて以来、地方自治体の方からお会いしたいとメッセージをいただくことが多く、みなさん関心があるんだなぁと思いました。あまり大きく公開していないのですが、実は弊社では企業・団体向けに「New Pilot Experience(初心者向け飛行体験会)」をやっていて、グローバルな事例情報をお持ちしながらドローンを体験していただく…というプログラムを無償で提供しています。

【田口】自分も地方自治体にドローンの空撮活用を提案しているので非常に興味深いお話です。みなさんの反応はいかがですか?

興味はあるけどどうしていいかわからない…という方がすごく多い印象です。モデルケースができればいいなと思いますね。視察に行きたい…という、まずはそこのニーズが多いようです。DJI STORYSに上がっている焼津市などはひとつの事例だと思っています。どのように導入して、運用しているかという。こういうのを参考にしていただくのもいいと思う。ただ、みなさん、まずは「参考」にしたいんですよね(苦笑)。その「参考」のところでお手伝いができればいいかなと思います。



【田口】DJIは具体的にユーザーと接するというよりはイメージをふくらませるようなヒントを与えていくような立場なのでしょうね。

それも1つですね。みなさんが考えていないような、おもしろいアイデアを出せるような会社でありたいです。みなさんが「おおお!」と思ってもらえるような。たとえば、独自の映像作品を作るときも結構弊社の中で「おおお!」と言っていますよ。いろいろなヘンタイが多いですね。私は違いますけど。。。(笑)

【田口】最後に、柿野さんにとって「ドローン」とはどんなものでしょう?



「ドローン」の近くにいるだけで本当に幸せですよ。毎日仕事が楽しいです。もちろん、仕事ですから嫌なことやしんどいことのほうが実は多いです。でも、新しい時代を作るお手伝いができることや、業界最強のDJIで仕事をすることに幸せも感じています。DJIは本当にすごい企業です。ただ、ドローンはまだまだよくわかっていない方が日本にはとても多いです。ドローンの事、ドローンのこれからの事をわかりやすく伝えていくことが私の使命だと思います。



インタビュアー紹介
田口 厚

インタビュアー:田口厚株式会社 Dron e motion(ドローンエモーション)代表取締役
1998年~IT教育関連NPOを立上げ、年間60回以上の学校現場における「総合的な学習」の創造的な学習支援や、美術館・科学館等にてワークショップを開催。その後Web制作会社勤務を経て中小企業のWeb制作・コンサルティングを主事業に独立。
2016年5月株式会社Dron e motionを設立、IT・Web事業のノウハウを活かしながら空撮動画制作・活用支援を中心に、ドローンの 活用をテーマにした講習等の企画・ドローンスクール講師、Web メディア原稿執筆等を行う。「Drone Movie Contests 2016」 ファイナリスト。
http://www.dron-e-motion.co.jp/


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