【とと姉ちゃん】洗濯機の商品試験は実際はどう取り上げられていたか?

2016/9/18 16:01 服部淳 服部淳


どうも服部です。昭和時代をさまざまな形で振り返っていくシリーズ記事、今回は4月4日に始まり、執筆時点で残すところあと2周間(10月1日まで)となってしまったNHK朝ドラ「とと姉ちゃん」を取り上げました。

ネタバレになる内容も含みますので、撮りためていてまだ見てないという方はご注意ください。



以前の記事で取り上げた「石けん比較」に始まった商品試験ですが(「とと姉ちゃん」も「暮しの手帖」も同じく)、その後トースター、電気アイロン、電気釜といった電化製品の試験がはじまり、9月12週には、終盤のクライマックスといえそうな電気洗濯機の公開試験が行われました。

では、「あなたの暮らし」のモデル雑誌である「暮しの手帖」では、それぞれどのように取り上げられていたのか調べてみました。


「暮しの手帖」で紹介された順では、電気アイロンが昭和30年の第29号に掲載と、上記の電化製品では最初の紹介でした(画像をクリックまたはタップすると拡大表示したものが見られます。以下同)。


めくったページにはショッキングな試験結果が。「半数は20分たつと柄が熱くて持てない」そう。


「あなたの暮らし」にも掲載されていた◯、△、×の評価表もあります。「とと姉ちゃん」に登場するアカバネ電器のように×ばかりの評価を受けたメーカーはないようです。


この電気アイロン試験には、実に16ページが割かれていました。その締めには「メーカーにゼヒ望みたいこと」という見出しで、外観より中身にもっと努力をなど苦言を呈しています。




電気釜の商品試験は、電気アイロンから立て続けだった「とと姉ちゃん」とは異なり、アイロン試験の3年後となる昭和33年の第44号に掲載されていました。




「暮しの手帖」では、日本料理、すし、中華料理の東京一流店料理人と一般家庭の主婦、計20名に、電気釜で炊いたものと薪やガスで炊いたものの食べ比べをしてもらったそうです。

結果は、どれかに好みが集中することなく割れたようなので、デビューしたての電気釜もそれほど悪くなかったようです(薪で焚いたご飯なんて、字面だけでおいしそうですけど)。




「とと姉ちゃん」では、初期の電化製品試験として行われたトースターですが、「暮しの手帖」では電気釜より3号後となる昭和33年の第47号に掲載されていました。


「今日のトースト・ブーム」という一文が見られることから、一気にパン食が広がった時代のようで、「日本ではトースターはいまや電気ガマとならんで、お台所の『必需品』化しようとする勢い」という作ればすぐ売れるという時代だったようです。


右に掲載されている写真は、試験で1日に焼かれたパンだそうで、5枚×24段あるので全部で120枚。「とと姉ちゃん」で、試験済みのパンを会社の前で配っていましたのが思い出されます。




電気洗濯機が「暮しの手帖」で初めて取り上げられたのは、意外と早く、昭和31年の第35号でした。


ただし、この回では洗濯機はどういう仕組みであり、手洗いとどう違うかなどの基礎知識と、


電気洗濯機を使っている284人の主婦の意見をまとめた内容で、商品試験ではありませんでした。


続くページでも調査結果が載っています。8割5分の利用者が購入してから3年以内だそうで、洗濯機が世に出回ったばかりのころだったということがわかります。


そして、「とと姉ちゃん」では昭和33年6月に公開試験が行われましたが、確認したところ「暮しの手帖」で洗濯機の商品試験が最初に載るのは、昭和36年の第60号。公開試験ではなかったようです。


ずらっと並ぶ洗濯機の商品試験の様子のようです。「とと姉ちゃん」ではオフィス内で試験をしていましたが、実際にはこのような環境で行われていたのですね。写真の下の文章を読んでみると、19台の新しい洗濯機を取り寄せたところ、そのうち6台はダイヤルが動かないなどで、交換したのだそう。まだ、安かろう悪かろうな時代だったようです。


試験が行われたのは、こちらの12種(「とと姉ちゃん」では8種)。左ページに3台、脱水装置の付いた2層式洗濯機がありますが、その他は脱水ローラーの付いた1層式です。全自動洗濯機は、国産では1965年(昭和40年)に発売となるので、ここには登場しません。


9月15日放送で映る「あなたの暮し」45号では、「汚れはどれもよく落ちる」という結論でしたが(チラっとしか映りませんが)、実際の紙面では善し悪しがあったようです。


こちらはダイヤルやコックの試験結果。アカバネのように紫外線による劣化でつまみが割れたという例は出てきませんが、「どれも使いにくい」と厳しい総評。


脱水ローラーについては、これまた「とと姉ちゃん」にあったボタンが割れるという事象については触れられていません。


これまたアカバネが指摘された、給水時に少し水を入れすぎると水が溢れだしてしまうという事象について。古田新太さん演じるアカバネ電器社長は「給水時にきちんと見ていればいい」と発言をし、総スカンを食らってしまいました。


その他、もろもろの細かい点もしっかりと試験がなされました。


総論としては、すでに洗濯機を持っていて故障していないのなら、最新製品は特に改善されているわけではないので、買い替えの必要はないとのこと。各メーカーとも、デザインに凝るがために性能を犠牲にしているなど、手厳しい意見ばかりです。


最後は、昭和30年発行の第31号のトリを飾る、花森安治編集長による「編集者の手帖」をいうページを紹介します。

あるとき、商業組合の理事長から「暮らしの手帖」に商品の写真や記事を紹介してもらうにはいくら払えばいいのかと質問されたといいますが、30号まで雑誌をつくってきて、こういうことを言われるのは初めてなのだそう。もちろん、一銭もいただくわけにはいかないと説明して断ったとあります。

左ページには、それと近い内容ですが、「なぜ広告をのせないのか」について。「とと姉ちゃん」を見続けた方ならご存知でしょうが(もちろん「暮しの手帖」の古くからの読者の方も)、広告をのせると商品の批判や紹介が非常にやりにくくなるとあります。「暮しの手帖」がなぜここまでブレずに伝え続けることができたかという核心でもあります。ぜひご一読いただきたく思います(読んでいると、つい唐沢寿明さん演じる花山伊佐治が語っているような感覚になってしまいます)。



段々と現代に近づいていき、残る話数で常子をはじめ、各登場人物の晩年が描かれていくでしょう「とと姉ちゃん」。最後まで目が離せません。そして、恐らく「とと姉ちゃん」×「暮しの手帖」の記事はこれが最後になりますが、すっかり虜になってしまった「暮しの手帖」、機会があればまた取り上げたいと思います。

(服部淳@編集ライター、脚本家) ‐ 服部淳の記事一覧

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