映画『ちはやふる』の世界に寄り添うPerfumeの歌声

2016/3/23 15:00 小池啓介 小池啓介



3月19日から公開された映画『ちはやふる 上の句』が、予想を上回るおもしろさで、思わずこの原稿を書いてしまいました。

原作は、末次由紀によって2008年から描き継がれている同タイトルの少女漫画。競技かるたに打ち込む綾瀬千早と、その仲間たちが活躍する“文化系”スポ魂漫画です。映画公開月の時点で31巻までが刊行され、コミック誌『BE・LOVE(ビーラブ)』で連載も継続中。


「ちはやふる -上の句・下の句-」予告



広瀬すずが演じる主人公・千早の“例の”白目。
畳の下側から、それを透かして置かれたかるたと選手を見上げる構図。
なによりも、競技かるたの試合が生む緊張感。

脚本および監督を担当した小泉徳宏監督は、原作の肝となる部分をすくいとり、それらを再解釈/再構築し、なおかつ映像の向こうにオリジナルのテーマを浮かび上がらせました。幸福な映像化とはこういった作品のことをいうのだろうな、と思います。

しかし、やはり原作ファンの心をわしづかみにするシーンは、清水尋也が再現した、千早の対戦相手・ドSの須藤君の「『ごめんなさい』は?」に尽きる気がします。これは必見ですよ。


■Perfumeが歌った主題歌の数

さて、本コラムは映画それ自体を語る場ではないので、ここからは映画にかこつけてPerfumeが担当した主題歌について書いていきます。

Perfumeは、これまで様々な映像作品の主題歌、テーマ曲を担当してきました。 ドラマでは、2011年『専業主婦探偵〜私はシャドウ』の「スパイス」、2013年『都市伝説の女 Part2』の「Sweet Refrain」、そして2014年『サイレント・プア』エンディングテーマ曲「Hold Your Hand」などがあります。

映画方面では、2013年のアニメ『映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)』に「未来のミュージアム」を提供し、2015年には自身のドキュメンタリー映画『WE ARE Perfume』で「STAR TRAIN」を歌いました。

映像とよく合う曲調もさることながら、作詞作曲を担う中田ヤスタカの、歌詞によって作品世界を的確に表現する技法は、作品ごとに冴えわたっています。

たとえば『専業主婦探偵〜私はシャドウ』は深田恭子演じる主婦が探偵家業にはまっていくミステリー・タッチの作品ですが、主題歌「スパイス」でPerfumeは「知らないほうがいいのかもね でも思いがけないワクワクが欲しい」と歌います。ドラマのテーマを言語化しながら、そこに恋愛のスリルや冒険心を持つことの大切さなど複数の意味を含ませているわけですね。


「Sweet Refrain」



また、『都市伝説の女 Part2』を彩った「Sweet Refrain」の歌詞「まさかというようなことを 次々と繰り返してきて」からは、不可思議な事件を扱うドラマの内容と、Perfumeのこれまでの活動という二重の読み取りが可能です。

中田ヤスタカの手によるPerfumeの――中でも映像作品に提供された――楽曲はいずれも、リスナーに深読みの楽しさを与える作りになっているのです。余談ですが、ここには、90年代のタイアップ全盛期のテレビドラマ主題歌のような、“濃さ”があるようにも思えます。


■圧倒的な“声”の存在感

映画『ちはやふる』でも中田ヤスタカの技巧は存分に発揮されています。主題歌のタイトルは「FLASH」。映画のエンドロールで流れました。

Perfumeの金看板であるテクノポップ色と、和風の空気感のある映画『ちはやふる』の作品世界とが意外なほど調和していて、本編が終わってから、今度は音楽で『ちはやふる』の映画にあった熱量を再度噛みしめることができるようになっています。

和楽器を思わせる音色を織り交ぜながら、EDMの要素をストレートに取り入れることでサビ前の高まりを生み、かるたの札をとりあう瞬間をサビにおいて「FLASH」という英語詞の“響き”で表現する。曲のタイトルにもなっているこのフレーズは、何度も何度も空気を切り裂くように耳に飛び込んできます。

詞に関しても同様。たとえばサビにある「最高のLightning Game」とは、もちろん競技かるたの様子を表したフレーズでしょう。

また、「鳴らした音も置き去りにして」と歌われる部分。これは、原作コミックで天才かるた少年・綿谷新(真剣佑)の祖父が幼き日の彼にいった「ときどきかるたの神様が」「音の一歩先を教えてくれることがあるんや」という言葉から来ているのではないかと思えます。

なによりも、ダンスミュージック、それも激しいEDM調の楽曲を『ちはやふる』の多面的な作品世界に寄り添わせる最大の要因、それは、Perfume3人の“声”にほかなりません。

かしゆかの特徴的な声ではじまる、童謡を思わせる穏やかな曲調の“メロ”から感じられるのは、映画の中での朗らかな日常。そしてサビ部分で三人のユニゾンが生む凛とした歌声が表現するのは、競技かるたの一瞬ですべてが決まる世界です。

様々な映像作品を彩ってきたPerfumeの三者三様の声は、やさしく、力強く、『ちはやふる』のあらゆる雰囲気を1曲に凝縮し、エンドロールにおいて確かな存在感を発していました。

もちろん、「FLASH」は純粋にPerfumeのニュー・シングルとして受け取っても、刺激的な音楽体験になることは確かでしょう。でも、できれば映画と一緒にこの楽曲を楽しんで欲しいと思います。

いずれにせよ、あらためてPerfumeというグループの声がもつ多彩な魅力に気づき、そして、それを“楽器のように”自在に操る中田ヤスタカという音楽家の力に圧倒される。「FLASH」とは、そういう楽曲なのではないでしょうか。


「FLASH」



■あの感動を再び味わうために

『ちはやふる 上の句』は、綾瀬千早のではなく――あえていうなら、彼女に恋心を抱く真島太一(野村周平)のストーリーになっていました。

パンフレット内のインタビューで、小泉監督は『上の句』のテーマは「運命」と仰っていましたが、本編でそれを大きく体現するのが太一です。クライマックスの試合でこのテーマが前面に出てくる――そこに劇的な手段で決着をつける――場面には鳥肌が立ちました。Perfume用語でいうところのバードスキンですね。
原作にない鮮烈なテーマを生み出した小泉徳宏監督の手腕を、『下の句』でも見てみたい。

おもしろいからといっても、そう何度も何度も映画館に足を運ぶのは難しい。主題歌「FLASH」を聴くことは、あの感動を思い起こさせてくれる最良の手段であるといえるでしょう。

(小池啓介)


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