AOR、シティ・ポップ?「Especia」の再現する音楽とは?

2016/1/27 15:30 小池啓介 小池啓介



GUSTO [CD]
「GUSTO」/つばさレコーズ


“楽曲派”というフレーズを耳にされたことはありますでしょうか?

鉄道ファンにも乗り鉄、撮り鉄といった区分けがあるように、アイドルの楽しみ方も様々です。ライブの体験を重視する人もいれば、握手会への参加が大好きな人、果ては在宅で情報収集に励む人などもいて、それはまあ多岐に渡るわけですが、そのなかで彼女たちが歌う音楽自体の良さを“好き”の基準にしている人たちを“楽曲派”と称することがあります。

“楽曲派w”や“楽曲派(笑)”と書いて、本当はアイドルの外見が好きなのに無理すんな、といった揶揄を込めて呼ばれることも少なくありません。軽い内輪もめですね。

そんな楽曲派にとっての希望ともいえる存在が、今回ご紹介するEspeciaです。

Especiaは、昨年から全国ツアーを行っており、そのツアー・ファイナルが去る1月17日に新木場スタジオコーストで開催されました。

アイドルには珍しい生バンドによる演奏をバックにパフォーマンスを敢行。楽曲派をうならせる名曲の数々がおしみなく披露され、会場はただただ幸福な空間と化していました。アンコールでの重大発表があるまでは……。


■会場を騒然とさせた重大発表

Especia(エスペシア)は、2012年に大阪で結成。 2015年1月時点でのメンバーは、冨永悠香(リーダー)、三ノ宮ちか、三瀬ちひろ、脇田もなり、森絵莉加の五名になっています。

先述した新木場のライブで、グループの今後について、ふたつの重大な発表がありました。

ひとつは、活動拠点を大阪から東京に移すこと。
そしてもうひとつは――それに伴い、三ノ宮ちか、三瀬ちひろ、脇田もなりの三名がEspeciaを“卒業”することです。ステージ上からその報告がされたとたん、客席では悲鳴が飛び交い、会場はしばらくお通夜状態でした。僕も目の前が真っ暗になるという体験を久しぶりに味わいましたね。5人のうち3人がグループを離れるのですから、これは大変なことです。

大阪堀江系ガールズ・グループをキャッチコピーに活動してきた彼女たちが、東京に活動の中心を移すことは、大きな決断といっていいでしょう。

陣容の変更を余儀なくされるグループの今後について想像するのは難しいところですが、少なくとも楽曲は残ること、ふたりのメンバーが活動を継続してくれるため、楽曲たちはこれからも“現場”で歌われるであろうこと――救いがないわけではありません。


■最良のスパイスを届けるグループ

――気を取り直してEspeciaの紹介を。

音の話からはじめてしまいましたが、その姿に目を向けると、個性が過ぎて、ときに「大阪のおばちゃん」と呼ばれることもあるファッションや、アイキャッチがたっぷりと詰まった振り付けなど、目を引く魅力にあふれたグループであることがわかります。

グループ名「Especia」は、スペイン語で香辛料=スパイスの意味があり、存在を構成するあらゆる部分が良いスパイスになるようにという思いが込められているようです。大阪のおばちゃん、スパイス効いてますよね。

とはいえ、そんな彼女たちの最良のスパイスは、やはり楽曲にほかなりません。 いわゆる楽曲派というフレーズが生まれたのは、2010年辺りからはじまったアイドル・ブームのなかで、音の面に力の入ったアイドル・ソングが増えて来たことが大きな理由でしょう。 曲が良いのはもはや当たり前という意見もあるようですが、そのなかでも際立って耳心地の良い音楽を提供してくれるのがEspeciaです。

その楽曲は主として、80年代に流行ったAOR、シティ・ポップと呼ばれるサウンドの再現を狙ったものになっています。激しさよりも、ゆったりと体を揺らすようなグルーブが前面に出てくるのが特徴です。

アイドルに限らず、思わず飛び跳ねたくなる“縦ノリ”、疾走感を重視した曲が全盛の近年の音楽界ですが、バンドに目を向けると、cero(セロ)、シャムキャッツなどの継続的な活動や、一昨年くらいからのAwesome City Club(オーサム・シティ・クラブ)やsuchmos(サチモス)、Yogee New Waves(ヨギー・ニュー・ウェーブス)らの台頭によって、比較的ゆるめのBPM(テンポ)から生まれる“横ノリ”主体のグループに注目が集まりつつあるようです。

彼女たちの音楽も、そういった現代のシティ・ポップとも呼ばれる“偶然の”ムーブメントに呼応する部分があるのがおもしろい。


■論より証拠

百聞は一見に如かず。まずは代表曲「No1 Sweeper」をお聴きください。



続いて「YA・ME・TE!」。



さらに「ミッドナイトConfusion」。タイトルもそうですが、アレンジが完全に80年代のキラキラ感そのものですね。



とどめは、アイドル音楽史に燦然と輝く2014年の1stフルアルバム『GUSTO』全曲を。
SoundCloudに1枚まるまるアップするという、公式の太っ腹がたまりません。



音源の無償提供に加え、Especiaのライブはアイドルには珍しく、客席からの撮影にずいぶんと寛容であり、動画サイトには様々な場所でのライブの様子がファンの手によって上がっています。

商業用に何台もの機材で撮ったものではありませんが、その分臨場感が伝わる映像が多く、オタクの熱意には本当に頭が下がります。重大発表後、僕の哀しみを癒す術は、ビール片手に彼女たちの代表曲のひとつ「No1 Sweeper」の各地のライブ映像を巡っていくことになりました。

最後に、目下のお気に入りを挙げておきます。
「Especia - No1 Sweeper Extended Ver. (with Japanese/English Lyrics)」ファンの方による動画です。オーディエンスのがなり声がばっちり入っていますね。




楽曲は残るとはいっても――嘘だといって欲しい気持ちに変わりはありません。
上記でおすすめした曲たちをお聴きになれば、この落ち込み具合が多少なりともご理解いただけるのではないでしょうか。


(小池啓介)



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