「鎌近(カマキン)」の愛称で親しまれてきた日本初の近代美術館があと2週間で閉館してしまいます。

2016/1/19 13:00 Tak(タケ) Tak(タケ)


日本で初めて(世界でも3番目)となる公立美術館として神奈川県立近代美術館鎌倉館(鎌倉市雪ノ下2)が鶴岡八幡宮の敷地内に開館したのが、1951年(昭和26)。第二次大戦終結後まだ日本が占領下にあったころです。

戦後の復興の象徴として近代美術館を建設しようと動き出したのが1949年(昭和24)、何とポツダム宣言受諾から僅か4年というのですから驚きです。



「戦後の混乱がまだ残り、占領下にあった日本に初めて「近代美術館」が誕生したのです。そのときに居合わせた人によれば、「まぶしくて直視できなかった」とのことです。ささやかな規模とはいえ、物理的にも、精神的にもそれは信じがたいほどに輝かしいものであったのです。」
『鎌倉からはじまった。「神奈川県立近代美術館 鎌倉」の65年』より。

誕生から65年が経過したとは思えないほどモダンで人々を魅了する「鎌倉近美(カマキン)」の建物の設計を担当したのは、巨匠ル・コルビジエの弟子、坂倉準三。

ちなみに建設にあたっては指名コンペが行われ、前川國男、坂倉準三、山下寿郎、谷口吉郎、吉村順三の中から坂倉準三の建設案が選ばれました。それにしてもすごい面々です。




神奈川県立近代美術館鎌倉館について建築家・坂倉準三が『建築文化』で語った言葉を引用しておきます。
「内部から外部にひろがる建築空間の処理、閉ざされていないコートヤードの取扱いなど、近代美術館の機能という基盤の上に立って、かつ歴史的な鶴岡八幡宮の境内ということを意識して、新しい建築によって新しい調和のとれた外部空間をつくり出そうとした意図は、今なお生きていると思っている。」

竣工から12年後の1963年(昭和38)書かれた文章が年号の変わった今でもそのまま通用する驚きは、実際に足を運んでみるとより一層顕著に感じられます。色褪せることなく「今なお生きている」のです。

建築には疎い自分でもそう感じるのですから、モダン・ムーブメントにかかわる建物と環境形成の記録調査および保存のための国際組織「DOCOMOMO」が「日本の近代建築20選」に選出するなど、各所から高い評価を受けているのも当然です。



田中岑「女の一生」1957年 の壁画をぼんやり眺めつつ380円のブレンドをカフェで飲めるのもあと数日…

耐震性や物理的な問題から建物はやがて「寿命」を迎えることは分かっていながらも、例外的に「鎌倉近美(カマキン)」だけは、いつまでもそこに在ってくれると思っていましたが、それも所詮は夢語り。サヨナラを告げねばならぬ時が迫って来てしまいました。

2016年(平成28)1月31日をもって美術館としての役目を終えてしまいます。と同時にひとつの時代が幕を閉じることになります。

「鎌倉近美(カマキン)」に懐かしい思い出のたくさんたくさんある方も、まだ一度も足を運んだことのない方も、泣いても笑っても残すところあと2週間しかありません。


今となっては珍しい、飾り気のないミュージアムショップで最後の記念に何を買い求めましょう。

Twitterなどを見ると、1月に入ってから(NHKの「日曜美術館」で取り上げられて以降)多くの方で最期の賑わいを連日みせているそうです。激動の時代に立ちあがり生き抜いてきたカマキン。最後に大きな花を咲かせてあげることが一番の労いになるはずです。



「鎌倉からはじまった。1951-2016 PART3:1951-1965『鎌倉近代美術館』誕生」
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は4時30分まで)
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/

「カマキン」最後の展覧会
「鎌倉近代美術館(略称:カマキン)」として長く愛されてきました鎌倉館での最後の展覧会となるPART3では、1951年の美術館誕生から1965 年までの15 年を取り上げます。草創期の当館では、戦前、戦中の文化的空白を埋めるべく、佐伯祐三、萬鉄五郎、古賀春江、松本竣介などの、小規模ながらも充実した展覧会が開催されました。そうした調査と研究を重視した展覧会のあり方は、美術館の礎として受け継がれてきました。本展では、この時期に取り上げた作家による作品を所蔵品から選んで展示すると同時に、美術館の活動に伴って改修が重ねられてきた坂倉準三設計による鎌倉館の変遷を、図面や写真、映像資料で紹介します。




閉館後は取り壊され更地にされて鶴岡八幡宮へ敷地を返すとの話も出ましたが、日本建築学会から建物の存続を求める要望書が出され、市民からも存続を希求する声が次々とあげられた結果、耐震補強を行ったうえで建物を存続させる方向で調整が進められることになりました。

神奈川県立近代美術館 鎌倉(略称:鎌倉館)の閉館に際しまして
 

先日、関係者を集め行われた神奈川県立近代美術館鎌倉 クロージング・レセプションの様子はこちらにまとめてあります。
 

尚、神奈川県立近代美術館は鎌倉館の他に、鎌倉別館、葉山館があり、そちらは今後も美術館として活動を続けていきます。葉山館では昨年藝大美術館他で開催し高い評価を受けたフィンランドの女流画家「ヘレン・シャルフベック――魂のまなざし」展を開催中です。