ラウド、ピコリーモ?シャウトするアイドル「PassCode」とは?

2016/1/4 12:30 小池啓介 小池啓介


歌っている最中に突然絶叫する、がなり声をあげるアイドル――なんだそれは? と戸惑う方が多いのではないでしょうか。 なんの必要があってそんなことするの? と思うでしょう。
それは、彼女たちの音楽ジャンルがそうさせているからです。
今回は、デスボイス、シャウトが大きな特徴となっているアイドルをご紹介します。


Never Sleep Again
Never Sleep Again Single



■鮮烈なツアーファイナル

2016年の年明け1月2日に、赤坂ブリッツで迎えたPassCodeの1stワンマンツアー最終日に行ってきました。正月早々満員に近いおよそ千人もの観客が集まった会場は壮観の一言でした。

彼女たちのライブはアイドル界でもとりわけ激しいことで有名で、開演前にモッシュ、ダイブの禁止が通達されましたが、1曲目からさっそくフロア前方でモッシュ、ダイブが起こるあまりにも予想通りの展開に笑ってしまいました。

いわゆるリフト(ひとりを数人が抱え上げる行為)も乱立。ダイブを敢行し退場させられていくオタク。さすがはPassCodeのライブです。しかもツアーファイナルときては、抑えがきかなくなるものむべなるかな……。

アイドルとファン――ちなみにPassCodeはファンを「ハッカー」という愛称で呼びます――が生み出す躍動感は、赤坂ブリッツという広がりをもった会場が無数のレーザーに彩られることでますます増幅し、祝祭の雰囲気に満ちあふれていました。

一部のはしゃぎっぷりは確かにルール違反と思われる残念なものではありましたが――個人的にはこれまで観た数多くのアイドル現場のなかでも破格の美しさが感じられたような気がします。

いうまでもなくこれは、PassCodeの音とパフォーマンスが生み出したものにほかなりません。
たった四人の女の子たちが(もちろんスタッフの力も借りながら)あれだけの場を生み出したことは感動以外の何ものでもないといっていいでしょう。ただただ素晴らしいライブでした。行って良かった。


■ピコリーモって何?

PassCode(パスコード)――このWEB検索に引っかかりづらそうな名前をもったアイドルグループは、南菜生、高嶋楓、今田夢菜、大上陽奈子の4人組。

2013年に活動開始後、メンバーチェンジ、コンセプトチェンジを経て現在の体制となっています。活動拠点は大阪で、メンバーもみな大阪府出身。

冒頭にも書いたように、彼女たちの特異性は、その音楽にあります。

まずは1曲、現時点での最新シングル「Never Sleep Again」を。これがPassCodeです。


現在のPassCodeの楽曲は、ピコリーモと呼ばれるサウンドが中心となっています。
ピコリーモとは、ラウドロックや絶叫するボーカルが特徴であるスクリーモに電子音(エレクトロ)をかけあわせ、さらに曲調をよりメロディアスに傾けた小さな区分のこと。日本のバンドではFear, and Loathing in Las Vegasが代表格とよくいわれますね。

また、PVなどを観ていると、マキシマム・ザ・ホルモンなどの影響も大いに感じられます。 ピコピコ音と轟音の融合、それに加えて多用される転調――この“コアな”音楽性とそれに合わせた複雑なボーカルおよびダンスパフォーマンスが、ライブでオタクの熱狂を誘う最大の理由です。

そしてなによりも、ここぞという瞬間に放たれる絶叫――シャウト、デスボイス。
このパートを担当するのは主に今田夢菜。メンバー中もっとも小柄で、ライブではひたすら笑顔をふりまく女の子が突如絶叫するのですから、初見のオーディエンスが衝撃を受けるのは想像に難くありません。

確信犯的なギャップが良く伝わる「アスタリスク」をお聴きください。



■化学反応が生む倍増する“エモさ”

2000年代のアイドル音楽は、Perfumeのエレクトロニカ/テクノポップや東京女子流のファンク/ブラックミュージック、BABYMETALのヘビーメタルなどに代表されるように、さまざまなジャンル(のプロフェッショナル)を迎え入れて発展している経緯があります。

ジャンルに真摯に向き合った楽曲を発展途上の女性ボーカルが歌うことで、儚さやほころびが見え、切実さが浮かび上がる点は何よりも重要で、一言でいうならば“エモい”――感情を強く揺さぶられるということ。

ラウドロック、ピコリーモの内包する“エモさ”とアイドル歌謡の“エモさ”の化学反応がPassCodeの核にあるものといっていいでしょう。元から“エモさ”をまとっているジャンルをアイドルがやることで、二重に“エモい”わけです。
いやいや、二重どころか数倍“エモい”じゃないか――そんなふうに心の琴線に一度触れてしまうと後戻りできない奥深い魅力が、このグループにはあります。

中毒性の高さはアイドル界でも屈指。目下最注目のグループのひとつといっていいはずです。


■これからの歩みについて

ライブのアンコールのMCで南菜生は「武道館でやりたいといった夢を語るのではなく、目の前の壁を乗り越えることを目標にしてきた」といった趣旨の発言をしました。

歌詞に目を向ければ、半径数メートルの日常にある繊細な心情を歌う楽曲が多いのもPassCodeの美点ではないかと僕は思っているのですが、楽曲の世界とずれのないメンバーの地に足の着いた言葉はとても信頼のおけるものです。

最後に、静かな“エモさ”がたまらない、ライブの光景も織り込んだ「オレンジ」のPVを。テクニカルな楽曲の多いPassCodeですが、こんな真っ直ぐな曲も生み出しています。




2016年のPassCodeですが、春には2ndアルバムが、夏にはZepp Diver Cityでのワンマンライブが決定しています。
今年は昨年以上に、激しく、楽しい、そして真摯に作り上げられたその音楽とグループの魅力がどんどん更新され、いっそう広がっていくことを願ってやみません。

(小池啓介)


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