【閉じない屋根はただのフタ!?】国立競技場“屋根”問題を考える

2015/5/26 19:40 スージー小江戸 スージー小江戸




5/18、列島に衝撃が走った国立競技場の“屋根が間に合わない”ニュース。「ビックリ」「心配」「怒り」「がっかり」「呆れ」…さまざまな反応がネットに溢れています。

筆者自身、スタジアム建築萌え、オリンピック好きに加えて、旧・国立競技場では幾度となく応援で絶叫し、笑ったり号泣したりと思い入れの強い場所だったので、ちょっと前のめりぎみにこの問題を考えてみたいと思います。

まず、何故このタイミングに?という疑問がありますが、5/15に「国立競技場の解体が終了」という報道が出ています。在りし日の国立競技場と、現在の赤土が剥き出しの無残な姿の対比には、「切ない」「寂しい」という声がたくさん聞かれました。


直後に出たこのニュースは、完全に“後出しジャンケン”的な仕打ち。ただでさえ切ない胸のうちを、グリグリえぐられる気分です…。


屋根が無いとなると「流行りのド●―ンが大量に落ちてくるんじゃ…」とか思いますが、やっぱり一番気になるのは「雨」のこと。オリンピックの開会式は7/24、パラリンピックの閉会は9/6なので、この期間にゲリラ豪雨や台風の襲来がないとは限りません。

特に開・閉会式は演出の都合上、夕方~夜開催になるでしょうから、その確率は高く

「世界中のお客様をズブ濡れにして、お・も・て・な・し」

ということにもなりかねません。

旧・国立競技場でも豪雨の中での観戦は、どんなに良いカッパを着ようとも体の芯までグッショリ、不快感が半端なかったので、2019年のラグビーW杯までにスタジアム建設と並行して超撥水かつ超透湿、絶対に不快にならない最高性能のレインウェア開発を急がねば…。


色々と危惧はあるものの、そもそも屋根がまったくナシなのか、間に合わせられる形状に変更されるのか、更新されたパースも最新図面も公開されないのでモヤモヤしていたら、東京新聞から図解付きの記事が出ていました。

下村博文・文部科学相の発言の意味するところは「屋根が丸々取り付けられない」のではなく「“開閉式”の部分が間に合わない」とのこと。


中央の開閉式屋根は「後から取り付ける」ことにして、観客席の上部は屋根で覆われるということですね。

しかし、「それなら良かった~!」とはならないのが、今回の屋根問題の根深いところ。まず、サッカーやラグビーは競技の特性上、天然芝のピッチで行いますが、芝を育てるには日光が不可欠。サッカー専用スタジアムで観客席に屋根はあってもピッチ上空に屋根がないことが多いのはそんな理由があるんですね。

一方、試合のない日にも稼働率を上げて収益を得るためにはコンサートの開催が最適なわけですが、問題になるのが「騒音」です。特に、都心にある国立競技場では騒音がネックでコンサートが開けないことが多々ありました。そこで遮音壁として機能するのがほかならない“開閉式屋根”。新しい国立競技場を“未来のために”建て替える意義はまさにそこで、一番重要なのは客席の屋根じゃなくてむしろ“開閉式屋根”、これは絶対、ぜーったいにハズせない条件なんです。

つまり

閉じない屋根は、ただのフタ。

付いていないも同然、「見えるけれども、ないんだよ」という代物です。

そこで「後付けする」というコメントに戻りますが、これについては筆者も内装業界にいた経験上、東京新聞の記事の指摘どおり「ほぼあり得ない」と考えています。

巨大な足場をまた組んで、一度仕上げた開口部を壊しながら開閉式屋根をつけるくらいなら、可動部分の設計に無理のないシンプルな屋根一式を全部つけ直す方がまだマシなのでは…いずれにしろ莫大なコストがかかる工事をわざわざ「やろう」と言い出す人が、2020年9月以降に現れるのかといったら、はなはだ疑問です。


それに、実際に“開閉式屋根”を持つスタジアムが、今どんな状況にあるかということも看過できません。


トヨタスタジアムの例では、2001年のオープンから15年と経たないうちに、維持・修繕費が膨らみすぎるため「運用を停止、撤去も検討」と報じられています。日本のスタジアムの開閉式屋根は早くも「開きっぱなし」というフェーズに入ったようです。

そうなるといよいよ、新・国立競技場にも“開閉式屋根”が後付けされる可能性が低くなりますね。“ただのフタ”をのっけたスタジアム…建築前なのにすでに漂い始めた「負の遺産」の香り…。

だったら西武ドームのように、既存のスタジアムを生かして屋根を増設することだって検討できたはず!!今からでも「屋根付き・8万人収容可能」な日産スタジアムにメインスタジアムを変更し、新・国立競技場プランは期限保留でじっくり練り直すという英断だってなくはないはず!!!

と、書いていてどんどん悲しくなってきました。
いま、愛すべき大きな“すり鉢”にお別れを告げたあの日、全員に配られたハンドタオルで涙をぬぐっていますが


「FOR THE FUTURE(未来のために)」という言葉が皮肉というか、犠牲になった旧・国立競技場からのメッセージに思えて余計に泣けてきました。


何でもいいからポジティブな要素はないのでしょうか……。

屋根を考えるのをやめて足元に視点を移したら、これは間違いなく新たに導入されるハズ!というものが1個だけ思い当たりました!


これは旧・国立競技場のゴール裏の座席ですが、荷物をイスの下に置けない造りになっていて、足元に置けば出入りする人のジャマになる、イスの上に移すと今度はある重要なモノが置けない…

それを解決するのが




ドリンクホルダー!!!

地味だけれど、これがあるのとないのでは大違い。とりあえずこの小さな光明にすがって気を取り直し、“屋根”問題の成り行きを見守っていこうと思います。


(スージー小江戸)