【完全レポート】氷彫刻の職人さんにお願いしてQRコードを作ってみた

2014/8/18 10:03 吉永龍樹(よしながたつき) 吉永龍樹(よしながたつき)



gooのキャンペーンで、有名な氷彫刻職人の方に好きなオブジェを作ってもらえることになった。

通常の氷彫刻は白鳥やペガサスなどの立派な像が多いのだが、こんな経験は一生無いと思うので、ダメもとで「インターネットの会社なのでQRコードなんてどうでしょうか?」と提案したところ、

なんと「やりましょう」という回答を頂けることに。


そんなわけで、本記事では大変珍しい&ものすごく贅沢な

全て氷でできたQRコードのできるまで」をお伝えしていきたいと思う。




まずは氷彫刻科の方のアトリエへ。




こちらが今回氷QRコードを制作して下さることになった氷彫刻家の清水三男さん。

清水さんがこれまで制作してきた作品はこんな感じだ。





どう見てもガチの芸術作品。由緒正しきイベントやセレモニーなどに展示されることが多いらしい。 (写真は清水さんの公式サイトより)



そして僕たちが当初作って頂こうとしていたQRコードはこちら。



読み取るとgooのホームページに繋がるものなのだが、清水さんに相談したところ、少し細かすぎて正確に氷で再現できないかもしれない懸念があるらしい。



作業としては、この型紙を切り抜いて氷に重ねながら彫っていくのだが



あまり細かすぎると、わずかな「ずれ」などが発生してしまう可能性が高まるのだ。


QRコードは埋め込む文字数によって複雑度が変わる。

そこで、急遽ホームページアドレスを取りやめ、「goo」という3文字を表示するコードを検討してみた。




これなら、先ほどよりもだいぶ簡単な図形になっている。

これでも氷で作ることを考えると充分に複雑だが、とりあえずこのQRコードで制作することが決まった。





こちらが、今回制作する工房。

刃物やドリルに並んで、ピンクのアイロンのようなものも見える。



清水さんが今回利用する氷を運んできた。

一辺50センチほどの氷だが、これだけでかなりの重さだ。



氷は表面に霜が貼っており、ざらざらになっている。

このままで大丈夫なのか気にしていると・・・








なんとアイロンがけを開始。

氷の表面をつるつるに整えるためには、一般に売られているアイロンを使うらしい。

まさかアイロンメーカーも、氷を溶かすために使われているとは思わないだろう・・・。






最後の調整は鉄板を利用。

これで完全に平らな表面が出来上がるとのこと。


完成したツルツルの表面がこちら。



白く濁って見えるのは底面で、上部は完全に鏡のような状態。




次に、用意したQRコードの切り抜きをセット。





ずれそうな部分はここでもアイロンを使う。アイロン大活躍だ。




それでも接着が悪い部分は、少しだけ水をかけることでピッタリとくっつけていく。






ピッタリと型紙をつけ終わった様子がこちら。
一番小さな1マスの正方形がずれないように注意。



そしていよいよ氷を削る作業に入る。



と、何やら上着を着始める清水さん。

実際の作業を行うのは工房のさらに奥、冷凍室なのだ。





冷凍室の温度はなんとマイナス18度!



この冷凍室、普段はマイナス30度ほどになっており、これでも温度を上げているとのこと。




まず利用するのはこちらのドリル。



QRコードの大まかな形を削るのに利用するものだ。





ギューッと削っていくと・・・






このような状態に。


そしてここからは手作業が始まる。



専用の「のみ」を利用して、きちんとしたQRコードになるよう、彫り込みを入れていく。




デコボコだった切断面が、どんどん直線的に整えられていくのがわかるだろう。






できたのがこちら。

完璧な四角形になっていてすごい。ここまでの作業、わずか5分程度である。






試しに削った左上部分により、「この制作方法で行けそうだ」という確証が出たので、あとは一気に作業。




かなり細かい部分もあるが、どんどん削っていく。






一時間が経過。無心で削る清水さん。


制作前にお話を伺った時には、

若い時、一日一体「氷の白鳥」を彫ることを自らに課して毎日実行した結果、58日目に突如ひらめいて「彫る前のブロック氷の中に白鳥の姿が見えるようになった」と言っていた。
運慶が「木の中にはじめから仏像が埋まっており、それを掘り出す作業をしている」と語った伝説があるが、まさに同じである。

そんなすごい人にQRコードをお願いしてもいいのか不安もあるが、もうここまで来たら作って頂くしかない。

もしかすると、清水さんの中では、もう氷の中にQRコードが見えているのかもしれない。



そして約90分後。





まだ紙が付いているが、一通りの彫り込み作業が終了。

見やすくするために後ろから蛍光灯を当てている。






次に、いよいよ紙をはがしていくのだが・・・




?!



まったく見えない!

紙をはがしてしまったせいで、あれだけがんばって彫ったQRコードが全く見えなくなっている。

これでは読み取るどころか、ただの氷の塊だ。


そうあせっていた時、

清水さんが突然「かき氷」を作りはじめた。



え、
これはまさか・・・





そう。削った穴にかき氷を押しこみ、模様が見えるように定着させたのである。





見えなかった模様が、どんどん見えるようになって行く。


しかし、ここでお気づきの方も多いように、

QRコードは白地に黒のインクで書かれたものだ。



かき氷を押しこむ作戦では、このように白黒が反転してしまう。

そうすると、カメラで読み込むことができなくなってしまうのである。



どうするのか、心配していると、



初めと同じ氷がもう一つ用意された。



それをおもむろに持ち上げ、QRコードの氷に重ねることで、サンドイッチ状に合体。

それに後ろから光を当ててみると・・・





氷でできたQRコードが完成!

確かにこれなら削ったコード部分が黒くなっており、読み取りできそうな雰囲気だ。



今回はこの完成品を猛暑の本場、熊谷市に展示することになっており、さっそく設置作業。



きれいな台座も別途作って頂き、なんと台座の中には蛍光灯が埋め込まれている。



だが、模様が白い・・・



台座の蛍光灯が光っているのも見えると思うが、何しろ太陽が照りつける炎天下。

うまくコードの模様が黒くなってくれず苦戦。



やむなく逆光で後ろから見ると、ようやく模様が黒に。





溶けないうちに急いで読み取ろうと、携帯をかざすも・・・



読み取れず。

それもそのはず、よく考えるとこれでは表裏が反転してしまっており、鏡に映した状態になってしまっている。




なんとかうまい状態で撮ろうと、周りをグルグル回るが、どうしてもQRコードを認識してくれない。

もしかすると、白黒の反転以外にも、別の要因があるのかもしれない。





可能性として考えられるのは、赤線で囲んだ、コードに隣接している部分である。ここがコードに近すぎて別の模様に見えてしまっているのではないか。


そこで国際的に公開されているQRコードの規格仕様書を調べてみると、こんな事実が判明した。





見てほしいのは「クワイエットゾーン」という部分。

QRコードは仕様により、コードだけでなく、その周囲に一定の空白が存在しないと読み取れないことがわかったのだ。




そのような視点で見ると、今回のコードは完全にクワイエットゾーンに別の模様が入ってしまっている。

これでは読み取れない・・・。


そうしているうちに、プロモーション用の看板などがどんどん設置され、ますます読み取りは困難に。




(模様は白いし背景は赤いし取材は来るしで読み取るどころではない状況)


そして一通りのマスコミ取材などが終わった後の氷。

わずか30分ほどでかなり溶けて、内部の模様まで水が滴っている。




中でもビックリしたのが氷の上面。
何やら生物のウロコのようになっている。



清水さんによると、氷の面が直射日光に当たると、このようにヘビのうろこのようなヒビが入るとのこと。

触ってみると、表面の模様だけでなく、奥までこの形に氷が砕けており、パリパリと剥がれていく。



そして一時間半ほど過ぎた段階で、崩れると危ないので解体することに。






どーん。



結果として、読み取れなかったのは残念だが、撮影した写真の枠部分をPhotoshopで加工するとあっさり読み取れたため、やはりQRコードはコードそのものだけでなく、十分な空白も重要だということが分かった。



また、もともと透明な氷である特性上、途中白黒反転してしまう事で苦労したが、

もしかすると今回削った模様部分にかき氷を詰めるのではなく、「模様部分を残して、他全てを削る」

という凹凸を反転した形にした方が炎天下でも読み取りやすかったのかもしれない。


もし、今後氷で巨大なQRコードの氷像を作りたいと思っている方がいれば、参考にして頂ければ幸いである。


(いまトピ編集部・吉永たつき)





※利用後の氷は、排水口付近に放置しておくと自動で無くなるので便利!